40代から始めたい「歯茎マッサージ」。血行促進で歯周トラブルを予防

歯を磨いたあと、歯ブラシの毛先にうっすら赤いものがついている。
40代に入ってから、そんな朝が増えていませんか。

歯科医師の中原志保です。
歯茎のケアというと歯磨きばかりが思い浮かびますが、指先で歯茎そのものに触れる「歯茎マッサージ」も、この年代から取り入れる価値があります。

この記事では、40代の歯茎に起きている変化を最新の調査データで確認したうえで、マッサージで何が期待できて何が期待できないのか、自宅でのやり方と注意点までお伝えします。

40代の歯茎に、静かに起きていること

歯茎マッサージの話に入る前に、この年代の口の中で何が進んでいるのかを見ておきたいと思います。
数字を知っておくと、ケアの優先順位が変わってくるからです。

45歳を境に、歯周ポケットの保有率が跳ね上がる

厚生労働省が2024年に実施した令和6年歯科疾患実態調査では、年齢階級ごとに歯茎の状態が調べられています。
歯周病の進行を示す4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合を追うと、40代の前半と後半で線が引かれているのがはっきり分かります。

年齢4mm以上の歯周ポケットがある人歯茎からの出血が確認された人
35〜39歳27.4%40.1%
40〜44歳28.6%39.5%
45〜49歳41.4%44.4%
50〜54歳44.4%49.5%
55〜59歳54.0%44.9%

40〜44歳では28.6%だったものが、45〜49歳では41.4%になります。
5年ぶんの年齢差で、12.8ポイントも増えるのです。

臨床の現場にいた頃、40代半ばの患者さんの検査結果を見て「去年と数字が違いますね」とお伝えする場面が何度もありました。
本人の生活は何も変わっていないのに、歯茎のほうが先に変わっていく。
40代は、そういう時期だと思っています。

出血している人と、気づいている人の数が合わない

同じ調査で、もうひとつ気になる数字があります。
歯科医が実際に口の中を診て「歯茎から出血あり」と判定された40〜44歳は39.5%でした。
ところが、同じ調査の質問紙で「歯をみがくと血が出る」と自分で答えた人は7.6%しかいません。

診査で見つかる出血と、本人が自覚する出血。
その差はおよそ5倍です。
つまり、歯茎からの出血の多くは、本人が気づかないまま起きていることになります。

歯肉炎の段階では痛みがほとんど出ません。
「痛くないから大丈夫」という感覚が、この年代ではあてにならなくなるということです。

女性ホルモンの減少が、歯茎に響いてくる年代

40代後半から50代にかけては、女性の体にとって大きな節目でもあります。
一般財団法人 日本口腔保健協会は、口の乾き(ドライマウス)の男女比が1対3で女性に多く、女性ホルモンの減少が唾液分泌量の低下を招いていると説明しています。

唾液が減ると、口の中を洗い流す力そのものが落ちます。
細菌が居座りやすい環境になり、歯周病や口臭のリスクが上がっていく流れです。

さらに同協会は、閉経すると骨密度が急速に減少し、顎の骨にも骨粗鬆症の影響が及ぶため、歯周病が重症化する誘因になるとも指摘しています。
歯を支えている土台が痩せていく時期と、歯周病が進みやすい時期が重なるわけです。

40代からのケアを勧めるのは、この重なりが来る前に手を打っておきたいからです。

歯茎マッサージで期待できること

ここからが本題です。
まずは、根拠のある部分から見ていきます。

血流が落ちると、歯茎の守りが薄くなる

血行と歯茎の関係が最もはっきり見えるのは、喫煙の研究です。
厚生労働省のe-ヘルスネット「喫煙と歯周病の関係」には、たばこの有害物質が血管を収縮させ、歯ぐきの血流量を減少させると書かれています。

血液循環が悪くなって歯茎に酸素が行き渡らなくなると、歯周ポケットの中で歯周病菌が繁殖しやすくなる。
これが、血流が落ちたときに歯茎で起きることです。

同じページには、もうひとつ怖い記述があります。
喫煙者は血行不良によって炎症が抑えられるため、出血や腫れが現れにくいというのです。
危険信号そのものが出にくくなる、ということになります。

裏を返せば、歯茎に十分な血が巡っている状態は、それだけで守りの一部だと考えられます。

日本歯周病学会も、ブラッシングの「第二の目的」に挙げている

歯茎マッサージというと民間療法のように聞こえるかもしれませんが、専門の学会も触れている領域です。
日本歯周病学会が監修する「ペリオブック」では、ブラッシングの目的をこう説明しています。
第一に歯茎の炎症を引き起こすプラークの除去であり、次に歯肉に対しての適度なマッサージ効果を与え、歯周組織の抵抗力を強くすることだ、と。

つまり、正しい歯磨きにはもともとマッサージの要素が含まれているのです。
歯茎マッサージは、まったく別の何かを始めることではありません。
毎日の歯磨きの中にある要素を、少しだけ意識的に伸ばすものだと考えてください。

歯科医師会が挙げている効果

公益社団法人 神奈川県歯科医師会のコラムでは、歯肉マッサージについて次のような効果が挙げられています。

  • 歯肉の血行が促進され、健康を維持するための栄養や酸素が適切に供給される
  • 歯周ポケット内の汚れの除去に役立つ
  • 口の周りの筋肉の緊張がやわらぐ

三つ目の「筋肉の緊張がやわらぐ」は、意外と見落とされがちです。
食いしばりや歯ぎしりの自覚がある方は、頬の内側や歯茎まわりが常にこわばっています。
ここがゆるむだけでも、朝の顎の重さが変わったという声はよく聞きます。

逆に、期待しすぎないほうがいいこと

効果の話だけを並べても役に立たないので、確かめられていない部分も同じだけお伝えします。

予防効果の証拠は、正直なところ限定的です

ここははっきりさせておきたいところです。
歯茎マッサージだけで歯周病を予防できると証明した、質の高い研究は多くありません。

非外科的な歯周治療に組み合わせた補助的な手段として、臨床データの改善を報告した研究はあります。
ただ、どのくらいの強さで、何分、どの部位を、という手技が標準化されていないため、研究どうしを比べることも難しいのが現状です。

ですから「歯茎マッサージをすれば歯周病にならない」とは、私は書けません。
書けるのは、血流と歯茎の関係には根拠があり、マッサージはその血流に働きかける方法のひとつだ、というところまでです。

プラーク除去の代わりには、絶対になりません

これだけは譲れない一線です。
e-ヘルスネットの「歯周病とは」によると、プラークの中には1mgあたり1億個以上もの細菌が含まれています。
この塊を物理的に取り除かないかぎり、歯茎の炎症は収まりません。

日本歯周病学会の「歯周病の予防」でも、歯と歯の間は歯ブラシだけでは磨ききれないため、デンタルフロスや歯間ブラシの使用が必要だと明記されています。
令和6年の調査では、歯間清掃用具を併用している人は63.4%でした。
逆に言えば、3人に1人はまだ歯ブラシだけで済ませていることになります。

指でマッサージをしても、歯と歯の間のプラークは取れません。
順番を間違えないでください。

自宅でできる歯茎マッサージのやり方

前置きが長くなりましたが、ここから実際の手順です。
特別な道具はいりません。

始める前に、手と口を整える

マッサージは、口の中に指を入れる行為です。
清潔さの確保が最初の仕事になります。

  • 石けんで手を洗い、指の間までしっかりすすぐ
  • 爪は短く切り、角をやすりで丸めておく
  • 歯磨きとフロスを済ませ、口をゆすいでから始める
  • 明るい場所で、鏡を見ながら行う

私は週末にガーデニングをするので、爪の内側に土が入り込むことがあります。
そういう日は、どれだけ洗ってもマッサージはやりません。
翌日に回します。

指で行う基本のマッサージ

人差し指の腹を歯茎に当てます。
爪の先ではなく、指紋のある平らな面です。

前歯の歯茎から始めて、奥歯に向かって少しずつ移動させます。
小さな円を描くように、ゆっくり動かしてください。
上の歯茎、下の歯茎、外側、内側と、四つの面を順に回していきます。

力加減がいちばん難しいところです。
目安としては、閉じたまぶたを指で軽く押すくらい。
歯茎が白く変色するほど押していたら、確実に強すぎます。

時間は片側30秒から1分、全体で2分から3分あれば十分です。
長くやればいいというものではありません。

歯ブラシを使う方法

指を口に入れることに抵抗がある方には、歯ブラシを使う方法があります。
毛先がやわらかいものを選んでください。

ペリオブックが紹介しているバス法では、毛先を歯面に対して約45度の角度で当て、歯と歯茎の境目に軽く入れます。
そこから小刻みに動かすことで、プラーク除去と歯茎への刺激を同時に行う形です。
同書では、適切なブラッシング圧は100〜200gとされています。

この数字、感覚ではまず分かりません。
一度、キッチンスケールの上に歯ブラシの毛先を当てて、150g前後がどのくらいの手応えなのか試してみてください。
ほとんどの方が「思っていたより軽い」と驚かれます。

和菓子のあんこを練るときも、力任せにすると口当たりが荒くなります。
歯茎に触れる力も、それと似たところがあると感じています。

唾液腺マッサージを組み合わせる

口の乾きが気になる方は、唾液腺のマッサージを足すと相性がいいです。
大きな唾液腺は三か所にあり、外側から刺激できます。

耳下腺は、耳たぶのやや前方、上の奥歯のあたりの頬です。
指を数本当てて、円を描くように10回ほど動かします。

顎下腺は、顎のラインの内側のくぼみです。
耳の下から顎の下まで、3〜4か所を順に、各5回ほど押していきます。

舌下腺は、顎の先のとがった部分の内側にあります。
顎の真下から舌を押し上げるように、10回ほどゆっくり上方向に押し当てます。

三つの方法を、いつどう使い分けるか

方法が並ぶと、どれをやればいいのか迷います。
生活に組み込む形を先に決めてしまうほうが続きます。

目的別の選び方

方法使うもの目安の時間向いている場面
指のマッサージ洗った手だけ2〜3分歯茎のこわばりや冷たさが気になるとき
歯ブラシでの刺激やわらかめの歯ブラシ歯磨きの中で口に指を入れたくないとき、毎日続けたいとき
唾液腺マッサージ手(口の外から)1〜2分口の乾き、口臭、飲み込みにくさが気になるとき

全部を毎日やる必要はありません。
歯ブラシでの刺激を毎日の歯磨きに組み込んでおいて、指のマッサージと唾液腺マッサージは週に何度か、というくらいで十分だと思います。

いつやるのがいいか

おすすめは、夜のケアのいちばん最後です。
歯磨きとフロスで汚れを落としきったあと、仕上げとして触れる。
この順番なら、細菌を歯茎にすり込む心配がありません。

寝ている間は唾液の分泌が減り、口の中の環境が最も悪くなる時間帯です。
日本歯周病学会も、寝る前の1回だけでも時間をかけて丁寧に磨き、完全にプラークを取り除くことが大切だとしています。
その締めくくりに歯茎を整えておくと、翌朝の口の感じが違ってきます。

やりすぎと、やってはいけない場合

良かれと思ってやったことが裏目に出る。
歯茎マッサージには、その落とし穴があります。

強い力は、歯茎を下げてしまいます

神奈川県歯科医師会も、強い圧力をかけると歯肉や歯を傷つける可能性があると注意を促しています。
歯茎に過剰な力をかけ続けると、歯肉退縮といって、歯茎が下がって歯の根が露出してくることがあります。

下がった歯茎は、放っておいて自然に戻るものではありません。
回復させるには外科的な処置が必要になる場合もあります。
「たくさん押したほうが血行がよくなりそう」という発想は、いちばん危険です。

歯磨きのときに力を入れすぎる癖がある方は、まずそちらを直してからマッサージに進んでください。

腫れ、強い出血、膿があるときは中止して受診を

歯茎が赤く腫れている、押すと膿が出る、少し触れただけで出血が止まらない。
こうした状態は、すでに炎症が進んでいるサインです。

神奈川県歯科医師会も、腫れや出血がある場合は過度な歯肉マッサージを行わず、歯科医師や歯科衛生士に相談するよう勧めています。
炎症を起こしている組織を刺激すると、細菌を深いところへ押し込んでしまう恐れもあります。

同会は、歯周病の進行状況によっては歯肉マッサージだけでは改善しないとも述べています。
自己判断でマッサージを続けるより、一度診てもらったほうが早く楽になります。

道具と歯磨き粉で気をつけたいこと

歯茎マッサージ専用のジェルは市販されていますが、必須ではありません。
何もつけずに指で行っても構いませんし、清潔な指が滑りにくいと感じるなら、少量の水で口を湿らせるだけで十分です。

避けたいものもあります。

  • 研磨剤の多い歯磨き粉をつけて、歯茎をこすること
  • 硬い毛の歯ブラシで歯茎を強くこすること
  • 爪を伸ばしたままの指、洗っていない指で触れること
  • つまようじや金属製の器具で歯茎を押すこと

歯ブラシは毛先が開いたら交換してください。
ペリオブックでは、通常1〜2か月で新しいものに替えることが目安とされています。

マッサージより先に、歯科へ行ってほしい症状

次のような状態があるときは、セルフケアを足すより先に受診をお願いします。

  • 歯がぐらつく、噛むと浮いたような感じがする
  • 歯茎から膿が出る、口の中に嫌な味が続く
  • 歯茎が部分的に大きく下がっている箇所がある
  • 出血が数日たっても収まらない
  • 口臭が急に強くなった

40代でこれらが出ている場合、歯周炎がある程度進んでいる可能性があります。
歯を支える骨が溶け始めている段階では、マッサージは治療の代わりになりません。

歯茎マッサージを「効く習慣」にするために

最後に、続け方の話をさせてください。
どんなケアも、単発では意味を持ちません。

土台はプラークコントロール

順番を整理します。
最優先は歯ブラシとフロス、歯間ブラシによるプラーク除去です。
歯茎マッサージは、その上に乗せる二階部分だと考えてください。

e-ヘルスネットの「歯間部清掃」でも、歯ブラシによる清掃は歯の表裏や噛み合わせには有効でも、歯と歯の間には十分ではないと説明されています。
マッサージを新しく始めるより、フロスを毎日使うほうが効果は確実です。
そこがまだできていないなら、先にそちらを固めましょう。

3か月続けて、歯科医院で答え合わせをする

自分の歯茎が良くなっているかどうかは、鏡だけでは判断できません。
歯科医院では歯周ポケットの深さを一本ずつ測り、探針を入れたときに出血するかどうかも記録します。
この記録があれば、3か月前の自分と比べられます。

令和6年の調査では、過去1年間に歯科検診を受けた人は全体で63.8%でした。
ただ、45〜49歳に限ると59.3%まで下がります。
仕事も家庭もいちばん忙しい年代なので、後回しになるのは分かります。

それでも、3か月に一度でなくていいので、半年に一度は測ってもらってください。
数字が動いていれば、続ける理由になります。
動いていなければ、やり方を変える理由になります。

生活のほうも、歯茎の血流を左右します

歯茎の血行を考えるなら、口の中だけを見ていても足りません。
喫煙が歯ぐきの血流量を減らすことは、すでに触れたとおりです。
禁煙は、どんなマッサージよりも歯茎への効き目が大きいと私は思っています。

睡眠不足や強いストレスも、血流と免疫の両方に影響します。
よく噛んで食べることは唾液の分泌を促します。
このあたりは歯科の話というより暮らしの話ですが、歯茎はその暮らしをかなり正直に映します。

歯科衛生士を育てる専門学校で教えていた時期、学生によく言っていたことがあります。
歯茎は、その人の生活の記録だと。
7年間その話をしてきて、考えは変わっていません。

まとめ

40代は、歯茎の状態が数字の上でも変わり始める時期です。
4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は、40〜44歳の28.6%から45〜49歳では41.4%へと増えます。
そして出血している人の多くが、自分では気づいていません。

歯茎マッサージは、血行を通じてその歯茎を支える方法のひとつです。
日本歯周病学会も、ブラッシングの第二の目的として歯肉へのマッサージ効果を挙げています。
ただし、これ単独で歯周病を防げるという証拠はまだ十分ではありませんし、プラーク除去の代わりにもなりません。

今夜、歯磨きとフロスを終えたあとに、洗った指で2分だけ歯茎に触れてみてください。
思っていたより硬いか、やわらかいか。
冷たいか、温かいか。
自分の歯茎の手触りを知っておくことが、変化に気づく最初の一歩になります。

季節の花を見て水やりを加減するように、自分の歯茎の様子を見ながら、力を加減していきましょう。