認知症と口腔ケアの意外な関係。歯の健康が脳を守るという研究結果

「歯を大事にしていると認知症になりにくい」という話を聞いて、本当かしらと思ったことはありませんか。
口腔ケアについて書いている中原志保です。
ここ数年で、歯の本数や歯周病と認知症を結ぶ研究が国内外で積み上がってきました。
この記事では、どこまでわかっていて、どこからがまだ推測なのかを整理しながら、今日から手をつけられるケアまでお伝えします。
結論を先にお伝えすると、歯を守ることは脳を守ることにつながります。

認知症と口腔ケアは、なぜ結びつくのでしょうか

歯と脳は、体のなかでも近い場所にありながら、これまで別々の科として扱われてきました。
その二つをつなぐ研究が増えてきたのは、歯周病という病気の見え方が変わったことが大きいと感じています。

歯周病は口の中だけの病気ではありません

歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨に細菌が感染して起こる感染症です。
痛みが出にくいまま進むので、国立長寿医療研究センターのコラムでは「沈黙の疾患」と紹介されています。
気づいたときには歯がぐらついていた、という方に診療室で何度もお会いしました。

厄介なのは、その炎症が口の中だけで完結しないところです。
歯ぐきの内側にできた傷口から細菌や炎症物質が血管に入り、全身をめぐります。
糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞との関わりが指摘されてきたのも、この経路があるためです。
認知症も、その延長線上で語られるようになりました。

歯と脳が影響し合う「歯脳相関」

2025年3月、国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの佐治直樹副センター長らの研究グループが、歯周病と認知機能に関する文献レビューを国際誌「BMC Oral Health」に発表しました。
そこで示されたのは、歯周病によって認知機能が低下し、認知機能の低下によって歯周病も悪化するという双方向の関係です。
研究グループはこれを「歯脳相関」と呼んでいます。
詳しくは、国立長寿医療研究センターの認知機能と歯周病についての研究成果をご覧ください。
同センターは患者さん向けのパンフレットも公開しています。

一方通行ではなく、行き来がある。
この視点は、ケアを考えるうえでとても実際的です。
どちらか片方を止めれば、悪循環のどこかにブレーキがかかる可能性があるからです。

認知症が進むと、口の中は荒れやすくなります

私が専門学校で歯科衛生士の卵たちに伝えていたのは、認知症のある方の口の中は「短期間で急に変わる」ということでした。
歯みがきの手順そのものを忘れてしまったり、歯ブラシを持ったまま次に何をするのか分からなくなったりします。
甘い飲み物を一日に何度も口にするようになる方も少なくありません。
こうした変化が重なると、数か月で歯石がつき、歯ぐきが赤く腫れてきます。

つまり、口腔ケアは認知症の予防としてだけでなく、認知症とともに暮らす期間の生活の質を守る手立てでもあります。
どちらの意味でも、早いうちから習慣にしておく価値があります。

歯の本数と認知症、研究でわかってきたこと

ここからは、実際に人を対象に行われた調査を見ていきます。
動物実験だけでなく、日本人の大規模なデータがあるのがこのテーマの心強いところです。

歯が20本以上ある人は、認知症のない期間が長い

東北大学学際科学フロンティア研究所の木内桜助教と東京科学大学の相田潤教授らの研究グループは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使い、65歳以上の自立した高齢者44,083人を10年間追跡しました。
平均年齢は73.7歳。
追跡期間中に17.3%が認知症を発症しています。

年齢や性別、教育歴、所得、喫煙、持病などの影響を統計的に取り除いたうえで、歯が20本以上ある人と比べた認知症発症のリスクは、10〜19本の人で1.14倍、1〜9本で1.15倍、0本で1.13倍でした。
そして、より生活の実感に近い指標として示されたのが「認知症のない余命期間」です。
65歳の時点で歯が20本以上ある人は、0本の人に比べて、認知症のない期間が男性で2.04年、女性で1.75年長いという結果でした。
数値の詳細は東北大学の報道発表「歯が多いほど、認知症のない余命期間が長い」にまとめられています。

65歳時点の推計認知症のない期間(20本以上との差)全余命期間(20本以上との差)
10〜19本男性 -0.88年/女性 -0.88年男性 -0.99年/女性 -0.94年
1〜9本男性 -1.41年/女性 -1.29年男性 -1.60年/女性 -1.45年
0本男性 -2.04年/女性 -1.75年男性 -2.42年/女性 -2.24年

2年という差を長いと見るか短いと見るかは、人によって違うと思います。
ただ、65歳から先の人生を考えたとき、自分の頭ではっきりものを考えられる時間が2年増えるのは、決して小さな話ではありません。

歯を失っても、入れ歯で噛めていればリスクは変わりません

歯を何本か失っている方にとって、ここからが大事なところです。
神奈川歯科大学の山本龍生教授らが愛知県の65歳以上4,000人以上を4年間追跡した調査では、歯がほとんどないのに入れ歯を使っていない人の認知症発症リスクは、歯が20本以上ある人の約1.9倍でした。
ところが、奥歯を失っていても入れ歯でしっかり噛めている人では、その差がほとんど見られませんでした。

失った歯の本数そのものより、噛める状態を保てているかどうかが効いている。
そう読める結果です。
入れ歯を「年を取った証拠」と受け止めて引き出しにしまってしまう方がいらっしゃいますが、あれはとてももったいないことだと思っています。

「関連がある」と「原因である」は違います

ここで一度、冷静な話をさせてください。
これらの調査は、歯が少ない人ほど認知症になりやすいという関連を示したものであって、歯を失ったことが原因だと証明したわけではありません。

たとえば、健康に無頓着な生活を送っている人は、歯科にも通わず、運動もせず、食事も偏りがちかもしれません。
その場合、歯の少なさと認知症の両方が、別の共通した要因から生まれている可能性があります。
研究者たちは喫煙や所得、持病などの影響を統計的に調整してこの問題に対処していますが、調整しきれない要素は残ります。

それでも、こうした調査が世界各地で似た方向の結果を出していること、動物実験でメカニズムの説明がついてきたことが重なって、口の健康は認知症を考えるうえで無視できない、という評価に落ち着いてきました。

歯周病の菌は、どうやって脳まで届くのでしょうか

口の中の細菌が脳に影響するというと、少し飛躍があるように聞こえるかもしれません。
ここは研究が急速に進んだ部分なので、順を追って説明します。

歯みがきのたびに、菌は血管へ入っています

歯周病が進むと、歯と歯ぐきの境目にできた溝(歯周ポケット)の内側に、皮膚のない傷口ができます。
そこは毛細血管がむき出しになった状態で、歯みがきやフロスのわずかな刺激でも出血します。
国立長寿医療研究センターのコラムによれば、日常的な歯みがきなどの刺激で、およそ30%の人に細菌が血流へ入る「菌血症」が起きるとされています。

同じコラムには、状態をつかみやすい例えが載っています。
中等度の歯周病で深さ5mmのポケットが28本分あると、その傷口の面積は大人の手のひら一枚分、およそ72平方センチメートルに相当するというのです。
手のひらほどの生傷が口の中にあり、そこから毎日菌が入り込んでいる。
そう考えると、歯ぐきからの出血を「よくあること」で済ませてしまうのが、どれほどもったいないかが伝わるでしょうか。

ジンジバリス菌とアミロイドβ

歯周病の代表的な原因菌に、ポルフィロモナス・ジンジバリスという細菌があります。
アルツハイマー型認知症の患者さんの脳から、この菌の成分が見つかったという報告が相次ぎ、注目が集まりました。

九州大学大学院歯学研究院の武洲准教授らの研究グループは2020年、中年のマウスにジンジバリス菌を3週間投与する実験を行いました。
その結果、脳の外で作られたアミロイドβ(アルツハイマー型認知症で脳にたまる老人斑の主成分)が、脳を守るはずの血液脳関門を越えて脳内へ取り込まれ、記憶障害が引き起こされることを確認しています。
成果は国際学術誌「Journal of Neurochemistry」に掲載されました。

体の外側で作られたものが脳へ運び込まれる。
この経路が示されたことで、歯ぐきの炎症と脳の変化のあいだにあった空白が、少し埋まりました。

菌を抑えると、進行は遅くなるのでしょうか

では、菌を叩けば認知症の進行を止められるのか。
ここが誰もが知りたいところですが、答えはまだ出ていません。

海外では、ジンジバリス菌が出す毒素(ジンジパイン)の働きを抑える薬を使った「GAINトライアル」という臨床試験が行われました。
国立長寿医療研究センターの解説によると、この菌に感染していた患者さんでは認知機能の低下する速さが30〜50%ゆるやかになったと報告されています。
期待の持てる数字ですが、これは薬による研究であり、歯みがきを頑張れば同じ効果が出るという話ではありません。

別の角度からは、認知症や軽度認知障害のある方に歯周病治療と口腔ケアを行った介入研究で、進行が抑えられる可能性を示すデータも得られています。
現時点で言えるのは、「治せる」ではなく「良い方向に働きそうだ」という段階です。
私はこの線引きを大切にしたいと思っています。

「噛む」ことそのものが、脳を働かせています

歯と脳の関係には、細菌とは別のルートもあります。
噛むという運動が、脳に直接届く道です。

ガムを噛んだあと、記憶の作業台が広がった

量子科学技術研究開発機構(当時の放射線医学総合研究所)と神奈川歯科大学の共同研究では、33人のボランティアにfMRIという装置を使い、ガムを噛む前後の脳を計測しました。
その結果、噛んだあとは作業記憶のテストの正解率が上がり、判断や段取りに関わる前頭前野の活動や、記憶に関わる右の海馬後部の活動も高まっていました。

作業記憶というのは、いま必要な情報を短いあいだ手元に置いておく力のことです。
料理をしながら鍋の火加減を覚えておく、電話番号を聞いて紙にメモするまで頭に留めておく。
そうした場面で使われる、机の作業台のような働きだと考えてください。
噛むことで、その作業台が少し広くなるイメージです。

噛めなくなると、食べるものが変わります

臨床で入れ歯の相談を受けていたとき、いちばん気になっていたのは食事の内容でした。
奥歯で噛めなくなると、肉や根菜、繊維の多い野菜が食卓から静かに消えていきます。
代わりに増えるのは、やわらかい麺類やパン、お粥です。

その結果として起きるのが、たんぱく質やビタミンの不足です。
低栄養は筋肉量の低下を招き、外出が減り、人と会う機会も減ります。
噛めないことは、栄養と体力と社会参加の三つを同時に細らせていきます。
歯の話が認知症の話につながる理由の一つは、ここにもあります。

誰かと食卓を囲むという回路

食べこぼしが増えたり、むせるようになったりすると、人と食事をするのが気詰まりになります。
外食に誘われても断るようになり、家族と時間をずらして食べるようになる。
そうやって少しずつ会話の量が減っていくのを、私は何人もの患者さんの経過で見てきました。

社会的な孤立は、認知症のリスク要因として繰り返し指摘されてきたものです。
口の機能が落ちることが、その入口になりうる。
歯科の側から見ると、これは決して大げさな心配ではありません。

口腔ケアだけで認知症が防げるわけではありません

ここまで読んでくださった方に、正直にお伝えしておきたいことがあります。

世界の認知症リスク要因のリストに、口は入っていません

医学誌ランセットの委員会は2024年、認知症の発症に関わる修正可能なリスク要因として14の項目を挙げました。
教育歴、難聴、高血圧、糖尿病、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、うつ、社会的孤立、頭部外傷、大気汚染、中年期の高いLDLコレステロール、視力の低下です。
口や歯の健康は、このリストに含まれていません。

理由は、証拠の質にあります。
歯と認知症の関係を示す研究の多くは観察研究で、人を無作為に振り分けて口腔ケアの効果を検証した大規模な試験はまだ十分ではありません。
「歯を守れば認知症を予防できる」と言い切るには、材料が足りていないのが現状です。

それでも、私が口腔ケアをすすめる理由

では期待しすぎない方がいいのかというと、私はそうは考えていません。
口腔ケアには、認知症の話を抜きにしても得られるものが多いからです。

  • 歯を失いにくくなり、自分の歯で食事を続けられる
  • 糖尿病や誤嚥性肺炎など、他の病気のリスクを下げられる
  • 口臭や出血が減り、人と会うときの気後れがなくなる
  • 治療費が結果的に安く済むことが多い

これらは、認知症との因果関係がはっきりしなくても手元に残る利益です。
そして万が一、将来の研究で関連がもっと強く裏づけられたなら、続けてきたことが無駄になることはありません。
歯みがきに副作用はなく、費用もわずかです。
不確かさが残るからこそ、損のほうが小さい選択を選んでおく。
私はそういう考え方で口腔ケアをおすすめしています。

今日から始められる口腔ケア

ここからは実践編です。
難しいことは一つもありません。

歯ブラシに、もう一つ道具を足す

歯ブラシの毛先は、歯と歯のあいだの隙間にはほとんど届きません。
歯周病が始まるのは多くがその隙間からなので、ここを担当する道具を一つ足してください。

歯と歯の隙間が狭い方はデンタルフロス、隙間が広がってきた方や入れ歯のばねがかかる歯がある方は歯間ブラシが向いています。
サイズが合っていないと歯ぐきを傷つけるので、最初の一本は歯科で選んでもらうのが確実です。
使う順番は、フロスや歯間ブラシで隙間の汚れを浮かせてから歯ブラシ、という流れが効率的です。

毎食後に完璧を目指す必要はありません。
一日一回、夜だけでも構いません。
夜は唾液が減って細菌が増えやすいので、寝る前の一回がいちばん効きます。

定期的に歯科で診てもらう

自分では磨けているつもりでも、歯石は歯ブラシでは取れません。
3〜4か月に一度、歯科で歯石を取ってもらい、磨き残しの場所を教えてもらうのが基本の形です。

厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査では、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合(8020達成者率)が61.5%となり、前回の51.6%から大きく伸びました。
過去1年に歯科検診を受けた人が初めて6割を超えたことも、日本歯科医師会が発表しています。
定期的に通う人が増えたことと、歯が残る人が増えたことは、おそらく無関係ではありません。
なお、この達成者率は80歳の方を直接数えたものではなく、75歳以上85歳未満のデータからの推計値です。
前回と集計方法が違う点は厚生労働省も注意を促しているので、数字そのものより「増えている」という方向をつかんでいただければ十分です。

一方で、歯周ポケットが4mm以上ある人は80〜84歳で61.6%、60〜64歳でも59.1%にのぼります。
歯が残っていることと、歯ぐきが健康であることは別の話です。
歯の本数だけで安心せず、歯ぐきの状態も診てもらってください。

入れ歯は「入れっぱなし」にしない

入れ歯を作ったあと、何年も調整に行っていないという方は少なくありません。
歯ぐきの土手は年月とともにやせていくので、作った当初はぴったりだった入れ歯も、数年後には合わなくなります。

合わない入れ歯を我慢して使うと、痛みを避けようとして片側だけで噛むようになり、噛む力そのものが落ちていきます。
噛めないままの状態が続けば、先ほどの研究が示したリスクの側に近づいてしまいます。
違和感が出たら作り直しではなく調整で済むことも多いので、早めに相談してください。

夜は外して洗い、水を入れた容器に入れて保管します。
入れ歯にも歯垢はつくので、専用のブラシで磨いてから、週に何度か洗浄剤を使うと清潔を保てます。

オーラルフレイルの5項目でセルフチェック

口の衰えは、ある日突然やってくるものではありません。
2024年4月、日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の3学会が合同でステートメントを発表し、「オーラルフレイル」を判定する5項目のチェックリスト(OF-5)を示しました。
2つ以上あてはまる場合はオーラルフレイルと判定されます。
原文は日本老年医学会のサイトでオーラルフレイルに関する3学会合同ステートメントとして読めます。

チェック項目目安
歯の数自分の歯が20本未満
噛みにくさかたいものが食べにくくなった
飲み込みにくさお茶や汁物でむせることがある
口の乾き口の中が乾くのが気になる
滑舌滑舌が悪くなった、言葉がもつれる

道具も検査もいりません。
ご自身やご家族に当てはめてみて、2つ以上あるようなら、それは歯科に相談する合図です。
オーラルフレイルは改善できる状態だと、ステートメントにも明記されています。

家族の口を守るとき、何から手をつけるか

介護を担う世代の方から、口腔ケアの相談を受けることが増えました。
本人が嫌がる、どこまでやればいいのかわからない、というお声がほとんどです。

まず見てほしいのは、歯ぐきの色と入れ歯の当たり

毎日の全部を引き受けようとすると続きません。
最初は週に一度でいいので、明るい場所で口の中をのぞかせてもらってください。

健康な歯ぐきは薄いピンク色で、引き締まっています。
赤黒く腫れていたり、歯ブラシを当てただけで血がにじんだりするなら、歯周病が動いているサインです。
入れ歯を使っている方なら、外したあとの歯ぐきに赤い当たり傷がないかも見てください。
本人が「痛くない」と言っていても、傷が残っていることがあります。

嫌がられたときの工夫

認知症のある方が口腔ケアを嫌がる場合、その多くには理由があります。
急に顔に手が伸びてくるのが怖い、口の中が痛い、何をされるのか分からない。
私が現場で見てきた限り、力ずくで押し切ろうとするほど拒否は強くなります。

うまくいっていたご家族に共通していたのは、こんな進め方でした。

  • 正面ではなく、横か斜め後ろから声をかける
  • 「歯を磨きます」ではなく「お口をきれいにしましょうね」と伝える
  • まず本人に歯ブラシを持ってもらい、仕上げだけ手伝う
  • 疲れている夕方を避け、機嫌のよい時間帯に回す
  • 一度で全部やろうとせず、今日は前歯、明日は奥歯と分ける

うがいが難しい方には、スポンジブラシや口腔用のウェットティッシュで拭き取る方法もあります。
歯科衛生士に一度実演してもらうと、力加減がつかめて楽になります。

通えなくなったら、訪問歯科という選択肢

外来に通うのが難しくなったら、そこで歯科との縁が切れてしまうご家庭が多いのですが、通院が困難な方の自宅や施設に歯科医師や歯科衛生士が出向く訪問歯科診療という仕組みがあります。
入れ歯の調整や歯石の除去、飲み込みの評価まで、外来と近いことができます。
公的医療保険や介護保険が使えるので、かかりつけの歯科医院か、お住まいの地域の歯科医師会に問い合わせてみてください。

寝たきりの方の口腔ケアは、誤嚥性肺炎を防ぐ意味でも重要です。
認知症の予防という話から少し離れますが、命に直結する部分なので、あわせて覚えておいていただければと思います。

まとめ

歯と脳の関係について、いま言えることを整理します。

日本人4万人以上を10年追いかけた調査では、歯が20本以上ある人は歯のない人に比べ、65歳時点で認知症のない期間が男性で約2.0年、女性で約1.8年長いという結果が出ました。
歯を失っていても、入れ歯で噛めていればリスクの差はほとんどなくなります。
歯周病菌が血管を通って脳に届き、アミロイドβの蓄積に関わる経路も、動物実験で示されました。
ただし、口腔ケアで認知症を予防できると断言できるだけの証拠は、まだそろっていません。

それでも、歯を守ることで得られるものは確かにあります。
自分の歯で好きなものを食べられること、人と気兼ねなく話せること、体の他の病気を遠ざけられること。
どれも、認知症の話とは別に手元に残ります。

今日の夜、歯ブラシのほかにフロスか歯間ブラシを一つ使ってみてください。
しばらく歯科に行っていないなら、予約の電話を一本かけてみてください。
口の中が整うと、食べ物の味が変わります。
その感覚は、数字の話よりもずっと確かなかたちで、毎日の暮らしを支えてくれるはずです。