「いつまでも自分の歯で、美味しく食事を楽しみたい」
「年齢を重ねても、自分の足でしっかりと歩きたい」
こんにちは。口腔ケア専門ライターの中原志保です。歯科医師として多くの患者さんと接する中で、このような願いをよく耳にします。実は、この二つの願い、全く別のことのようで、その土台は深く繋がっていることをご存知でしょうか。
私たちの丈夫な歯は、顎の骨によって支えられています。そして、その骨は、全身の骨と繋がっています。つまり、歯と骨の健康は、切っても切れない関係にあるのです。この記事では、歯科医師としての知識と、日々の食生活を大切にする一人の生活者としての視点から、あなたの歯と骨を同時に、そして美味しく育むための「食事と栄養素」のお話をさせていただきます。毎日の食卓から始める、未来の健康づくり。一緒に考えてみませんか。
なぜ歯と骨は一緒に考えるべきなの?
お口の健康というと、虫歯や歯磨きのことばかりを想像しがちですが、その大切な歯を支えている土台こそが、顎の骨(歯槽骨)です。家も土台がしっかりしていなければ傾いてしまうように、歯も歯槽骨が健康でなければ、ぐらついたり、最終的には抜け落ちてしまったりします。
例えば、日本人の成人の多くが罹患していると言われる歯周病。これは、歯茎の炎症から始まり、進行すると歯を支える歯槽骨を溶かしてしまう怖い病気です。また、全身の骨がもろくなる骨粗しょう症は、顎の骨も例外ではありません。骨密度が低下することで、歯が抜けやすくなるだけでなく、入れ歯が合わなくなるといった問題も引き起こします。
このように、歯の健康は、決してお口の中だけで完結する問題ではありません。全身の骨の健康と深く結びついているのです。
歯と骨、両方を強くする「栄養素のチームワーク」
丈夫な歯と骨を作るためには、特定の栄養素だけを摂るのではなく、様々な栄養素が協力し合う「チームワーク」が不可欠です。ここでは、その代表的な栄養素たちをご紹介します。
チームの主役!骨と歯の材料となる「カルシウム」
言わずと知れた、骨と歯の主成分です。食事で摂取したカルシウムは、私たちの骨や歯を形成し、その強度を保ちます。また、食事によって酸性に傾いたお口の中を中和し、歯の表面が溶け出すのを防ぐ「再石灰化」という重要な働きも担っています。カルシウムが不足すると、骨がもろくなるだけでなく、虫歯のリスクも高まってしまうのです。
- カルシウムが豊富な食品: 牛乳、チーズ、ヨーグルト、小魚、豆腐、納豆、小松菜、ひじき
カルシウムの吸収を助ける名サポーター「ビタミンD」
せっかくカルシウムを摂っても、それが体に吸収されなければ意味がありません。そこで活躍するのがビタミンDです。ビタミンDは、腸でのカルシウムの吸収率を高め、骨への沈着を助ける、まさに名サポーター。魚やきのこ類に多く含まれるほか、日光(紫外線)を浴びることで私たちの皮膚でも作り出すことができます。
- ビタミンDが豊富な食品: 鮭、いわし、さんま、干ししいたけ、きくらげ
カルシウムを骨に定着させる司令塔「ビタミンK」
吸収されたカルシウムを、きちんと骨に届けて定着させる司令塔の役割を果たすのがビタミンKです。骨の形成を促し、「骨の質」を高めるためにも欠かせません。特に、日本の伝統食である納豆には、ビタミンKが豊富に含まれています。
- ビタミンKが豊富な食品: 納豆、ほうれん草、ブロッコリー、小松菜
骨の質を高め、歯茎を健康にする「タンパク質」と「ビタミンC」
骨の強度は、カルシウムの量だけでなく、骨の構造を支えるコラーゲンの質にも左右されます。タンパク質は、そのコラーゲンの主材料となります。そして、ビタミンCは、タンパク質からコラーゲンを合成する際に不可欠な栄養素です。歯茎も主にコラーゲンでできているため、ビタミンCは健康な歯茎を保ち、歯周病を予防するためにも非常に重要です。
- タンパク質が豊富な食品: 肉、魚、卵、大豆製品
- ビタミンCが豊富な食品: ピーマン、ブロッコリー、柑橘類、キウイフルーツ
毎日の食事で実践!歯と骨を育む「食べ方」のコツ
栄養素の知識を、日々の食事で活かすための簡単なコツをご紹介します。
栄養素をまとめて摂れる「一汁三菜」のすすめ
主食、主菜、副菜、汁物が揃った日本の伝統的な「一汁三菜」の食事スタイルは、歯と骨に必要な栄養素をバランス良く摂るのに非常に適しています。例えば、「ごはん、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし、豆腐とわかめのお味噌汁」といった献立を想像してみてください。これだけで、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質などを一度に摂取できます。
よく噛むことの効果
よく噛むことは、消化を助けるだけでなく、お口の健康にも多くのメリットをもたらします。唾液の分泌が促進され、お口の中を洗い流し、虫歯菌の活動を抑えてくれます。さらに、噛む刺激が顎の骨に伝わり、骨の健康維持にも繋がるのです。根菜やきのこなど、食物繊維が豊富な食材を食事に取り入れると、自然と噛む回数が増えるでしょう。
知っておきたい、歯と骨を弱くする食習慣
丈夫な歯と骨を作るためには、体に良いものを摂るだけでなく、悪影響を及ぼすものを避ける意識も大切です。
- リンの摂りすぎ: インスタント食品や加工食品、炭酸飲料に多く含まれるリンは、摂りすぎるとカルシウムの吸収を妨げてしまいます。
- 砂糖の摂りすぎ: 砂糖は虫歯の直接的な原因となるだけでなく、お口の中の悪玉菌を増やし、歯周病を悪化させる一因にもなります。
- カフェインやアルコールの過剰摂取: 適量であれば問題ありませんが、摂りすぎはカルシウムの排出を促してしまいます。コーヒーは1日2〜3杯程度を目安にしましょう。
まとめ
丈夫な歯と骨は、一朝一夕に作られるものではありません。しかし、特別なサプリメントや高級な食材が必要なわけでもないのです。
- 歯と骨の健康は繋がっている
- カルシウム、ビタミンD、ビタミンKのチームワークが重要
- バランスの良い「一汁三菜」の食事が理想的
- よく噛むことで、お口と顎の骨の健康を保つ
- リンや砂糖の摂りすぎには注意する
毎日の食卓で、ほんの少し栄養素のチームワークを意識してみる。その小さな積み重ねが、10年後、20年後のあなたの「美味しく食べる喜び」と「元気に歩ける体」を支える、何よりの財産となります。今日からぜひ、楽しみながら実践してみてください。


