見過ごさないで!歯科医が教える口腔がんの初期症状とセルフチェックの方法

「口内炎がなかなか治らない…」「口の中に、なんだか違和感がある…」。そんな経験はありませんか?多くの場合、それは一時的な口内炎かもしれませんが、もしかしたら、それは見過ごしてはいけない「口腔がん」のサインかもしれません。

こんにちは。口腔ケア専門ライターの中原志保です。私は長年、歯科医師として臨床に携わり、多くの患者さんのお口の健康と向き合ってきました。その経験から、口腔がんが発見されたときには、すでに進行してしまっているケースが少なくないことを痛感しています。しかし、口腔がんは、ご自身で早期に発見できる可能性のある、数少ないがんの一つでもあります。

この記事では、歯科医師としての知識と経験に基づき、口腔がんの正しい知識、見逃してはいけない初期症状、そしてご自宅で簡単にできるセルフチェックの方法を、分かりやすく丁寧にお伝えします。この記事を読み終える頃には、あなたご自身と、あなたの大切な人の健康を守るための、確かな知識が身についているはずです。

口腔がんとは?見過ごされやすい「静かな病気」

口腔がんとは、その名の通り、舌や歯ぐき、頬の粘膜など、お口の中にできるがんの総称です。日本では、年間約22,000人以上の方が新たに口腔・咽頭がんと診断されており、その数は年々増加傾向にあります。特に40代後半から増え始め、高齢になるほどそのリスクは高まります。

なぜ早期発見が難しいのか?

口腔がんの早期発見が難しい最大の理由は、初期段階では痛みや出血といった自覚症状がほとんどないことです。そのため、多くの方が「ただの口内炎だろう」と自己判断してしまい、発見が遅れてしまうのです。

実際に、口腔がんの約8割は進行した状態で見つかると言われています。しかし、もしステージⅠの段階で発見できれば、5年生存率は90%以上と非常に高く、治療後の後遺症もほとんどありません。だからこそ、日頃からのセルフチェックが何よりも大切になるのです。

【歯科医が解説】口腔がんの初期症状を見分ける7つのサイン

口腔がんと口内炎は、見た目が似ているため見分けるのが難しい場合があります。しかし、注意深く観察すると、いくつかの決定的な違いがあります。ここでは、歯科医師の視点から、特に注意していただきたいポイントを7つご紹介します。

口内炎との決定的な違いは「治るまでの期間」

最も重要なポイントは、治るまでの期間です。通常の口内炎であれば、長くても2週間程度で自然に治癒します。もし、口内炎のような症状が2週間以上経っても治らない、あるいは大きくなったり形が変わったりする場合は、口腔がんの可能性を疑い、専門医を受診してください。

注意すべき粘膜の変化(白斑・赤斑)

お口の粘膜に、こすっても取れない白い斑点(白板症)や、赤い斑点(紅板症)ができていませんか?これらは前がん病変といって、がんになる可能性のある状態です。特に、紅板症はがん化するリスクが高いとされています。痛みがないからといって放置せず、必ず専門医に相談しましょう。

しこりや腫れ、硬さのチェック

指で触ってみて、お口の中に硬いしこりや、盛り上がった部分はありませんか?口腔がんは、周囲の組織に浸潤しながら増殖するため、硬いしこりとして触れることがあります。口内炎のように表面がへこんでいるのではなく、周囲が硬く盛り上がっている場合は注意が必要です。

その他の注意すべき症状

以下の表に、口腔がんの可能性がある症状をまとめました。複数当てはまる場合は、より注意が必要です。

症状特徴
治りにくい傷歯が当たってできた傷や、入れ歯が擦れてできた傷が2週間以上治らない。
原因不明の出血食事中や歯磨きの際に、覚えのない場所から出血する。
歯のぐらつき歯周病でもないのに、特定の歯が急にぐらつき始めた。
入れ歯の不具合今まで使っていた入れ歯が、急に合わなくなったり、痛みを感じたりする。
感覚の麻痺舌や唇の一部が、しびれたり、感覚が鈍くなったりする。
飲み込みにくさ食べ物や飲み物が、喉につかえるような感じがする。
声の変化声がかすれたり、しゃべりにくさを感じたりする。

誰でもできる!毎月1回のセルフチェック習慣

口腔がんは、ご自身の目で見て、手で触って確認できるがんです。月に1回、ご自身の誕生日など、覚えやすい日を決めてセルフチェックを習慣にしましょう。

セルフチェックの前に準備するもの

  • 大きめの鏡
  • 明るい照明(洗面所の明かりなどで十分です)
  • 清潔な指

入れ歯やかぶせ物をしている方は、外してから行いましょう。

【イラストで解説】口腔がんセルフチェックの具体的な手順

以下の8つのステップで、お口の中を隅々までチェックしましょう。

  1. 唇の内側と歯ぐき
    人差し指で唇をめくり、上下の唇の内側と歯ぐきの色や形に変化がないか、しこりがないかを確認します。
  2. 頬の粘膜
    指で頬を少し引っ張り、左右の頬の内側を奥までしっかりと見ます。噛み合わせの線に沿って白い筋が見えることがありますが、それ以外の変化に注意しましょう。
  3. 上あご
    顔を上に向けて、口を大きく開け、上あご全体の色や形を観察します。中央に骨の隆起が見られることがありますが、それは異常ではありません。
  4. 舌の表面
    舌を前に突き出し、表面全体の色や状態を確認します。
  5. 舌の側面
    舌を左右に動かし、舌の側面を根元までしっかりと観察します。舌がんはこの側面にできることが最も多いので、特に念入りにチェックしてください。
  6. 舌の裏側
    舌の先を上あごにつけるように持ち上げ、舌の裏側と、その付け根(口腔底)に変化がないかを確認します。見えにくい場所なので、鏡をうまく使って観察しましょう。
  7. 喉の奥
    「あー」と声を出しながら、喉の奥や扁桃腺のあたりに腫れや赤みがないかを確認します。
  8. 顎や首のリンパ節
    最後に、顎の下や首の周りを指で優しく触り、普段はないしこりや腫れがないかを確認します。口腔がんはリンパ節に転移することがあります。

口腔がんのリスクを高める生活習慣

口腔がんの発生には、いくつかのリスク因子が関わっていることが分かっています。ご自身の生活習慣を見直すことも、大切な予防の一つです。

喫煙と飲酒の相乗効果

口腔がんの最大の危険因子は喫煙です。国立がん研究センターの研究によると、たばこを吸う男性は吸わない男性に比べて、口腔・咽頭がんの罹患リスクが2.4倍にもなると報告されています。さらに、飲酒の習慣が加わると、そのリスクはさらに跳ね上がります。たばこを吸い、かつ飲酒量が多いグループでは、どちらの習慣もないグループに比べて、リスクが4.1倍にもなるというデータがあります。これは、アルコールがたばこに含まれる発がん性物質を溶かし、粘膜に浸透しやすくするためと考えられています。

詳しくは公式サイトの喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについてをご覧ください。

その他のリスク因子

  • 不適切な食生活: 緑黄色野菜や果物の摂取不足は、がん全般のリスクを高めます。
  • 口腔内の不衛生: 磨き残しが多いなど、お口の中が不潔な状態が続くと、慢性的な炎症が起こりやすくなります。
  • 合わない入れ歯や被せ物: 適合の悪い入れ歯などが、常に粘膜の同じ場所を刺激し続けると、その部分ががん化することがあります。

もし「おかしい」と感じたら?すぐに専門医へ相談を

セルフチェックで少しでも気になる点が見つかったら、決して自己判断で放置せず、専門医に相談することが重要です。

何科を受診すればいい?

まずは、かかりつけの歯科医院を受診しましょう。歯科医師は、お口の中の異常を診断する専門家です。必要に応じて、より高度な検査ができる大学病院や総合病院の口腔外科を紹介してくれます。

公益社団法人日本口腔外科学会のウェブサイトでは、お近くの専門医を探すことができます。
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早期発見があなたの未来を守る

繰り返しになりますが、口腔がんは早期に発見すれば、決して怖い病気ではありません。ステージⅠで発見された場合の5年生存率は90%を超え、治療による身体への負担も少なく、食事や会話といった大切な機能も損なわずに済みます。

「気のせいかもしれない」「病院に行くのは面倒だ」と思わずに、勇気を出して一歩を踏み出すことが、あなた自身の未来、そしてあなたを大切に思うご家族の未来を守ることに繋がるのです。

まとめ

今回は、口腔がんの初期症状とセルフチェックの方法について詳しく解説しました。

  • 口腔がんは初期症状が乏しく、口内炎と間違えやすい
  • 「2週間以上治らない口内炎」は危険なサイン
  • 月に1回のセルフチェックを習慣にすることが早期発見の鍵
  • 喫煙や過度な飲酒は、口腔がんの最大のリスク
  • 少しでも異変を感じたら、迷わず歯科医院や口腔外科を受診する

お口の健康は、美味しく食事を楽しみ、楽しく会話をするという、私たちの生活の質(QOL)に直結しています。この記事が、あなたご自身のお口の健康に関心を持ち、セルフチェックを始めるきっかけとなれば、歯科医師として、そして一人のライターとして、これほど嬉しいことはありません。毎日の歯磨きに加えて、月に一度のセルフチェック。ぜひ、今日から始めてみてください。