「マウスウォッシュ」と「デンタルリンス」、どちらもお店でよく見かけるけれど、実は違いがあるってご存知でしたか?
「何となく口がさっぱりするから」と使っている方も多いかもしれませんね。
こんにちは。
歯科医師として長年、患者さんのお口の健康に携わり、現在は口腔ケア専門ライターとして活動している中原志保です。
臨床現場や取材を通して、「専門的な知識を、もっとやさしく、毎日の生活に役立つ形でお届けしたい」という想いで情報を発信しています。
今回は、この「マウスウォッシュ」と「デンタルリンス」という、似ているようで実は役割が違う二つの製品について、その違いから効果的な選び方、正しい使い方まで、丁寧に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたにぴったりの一本が見つかり、毎日のオーラルケアがもっと効果的で、意味のあるものに変わるはずです。
基本のキーワード整理:マウスウォッシュとデンタルリンスとは
まず、基本となる二つの言葉の違いを整理しましょう。
お店では隣に並んでいることも多いですが、その目的と役割は明確に異なります。
呼び方の違いと市販製品の実情
一般的に、液体タイプのオーラルケア製品は、大きく二つに分類されます。
- マウスウォッシュ:法律上は「洗口液(せんこうえき)」と呼ばれます。
- デンタルリンス:法律上は「液体歯磨(えきたいはみがき)」と呼ばれます。
パッケージをよく見ると、「洗口液」や「液体歯磨」と書かれているはずです。
これが、二つを見分ける最も確実な方法です。
「デンタルリンス」という名称で販売されていても、分類が「洗口液」である製品もあるため、購入の際は品名表示を確認する習慣をつけると良いでしょう。
含まれる成分と目的の違い
二つの最大の違いは、その「目的」にあります。
マウスウォッシュ(洗口液)
目的:口臭の防止や口の中を浄化し、爽快にすること。
役割:歯磨き後の仕上げや、外出先で歯磨きができない時の補助的なケア。
特徴:口に含んですすぐだけで手軽に使える反面、歯の表面に付着したネバネバした汚れ(プラーク)を落とすことはできません。デンタルリンス(液体歯磨き)
目的:虫歯や歯周病の予防。
役割:歯磨き粉の液体版。ブラッシングと併用することで効果を発揮します。
特徴:液体なので口のすみずみまで有効成分が行き渡りやすいです。 研磨剤が含まれていない製品が多いため、歯に優しいのもポイントです。
つまり、「すすぐだけ」で口内をリフレッシュするのがマウスウォッシュ、「ブラッシングとセット」で虫歯などを予防するのがデンタルリンスと覚えておきましょう。
日本と海外での呼び分けの違い
日本では上記のように「洗口液」と「液体歯磨」で区別されていますが、海外では「Mouthwash」や「Mouth Rinse」という言葉が広く使われ、製品によっては両方の機能を併せ持つものもあります。
海外製品を選ぶ際は、日本の製品と同じ感覚で選ぶのではなく、その製品が「ブラッシングが必要か不要か」「どのような効果を目的としているか」をよく確認することが大切です。
目的別に見る:自分に合った選び方
では、あなたの目的に合わせて、どちらを選べば良いのでしょうか。
具体的なお悩みに沿って見ていきましょう。
虫歯・歯周病予防に効果的なのは?
虫歯や歯周病をしっかりと予防したいと考えているなら、選ぶべきは「デンタルリンス(液体歯磨)」です。
デンタルリンスには、以下のような有効成分が含まれている「医薬部外品」が多くあります。
- フッ化物(フッ素):歯の質を強くし、虫歯の発生と進行を防ぎます。
- 殺菌成分(CPC、IPMPなど):虫歯菌や歯周病菌を殺菌し、プラークの付着を防ぎます。
- 抗炎症成分(グリチルリチン酸ジカリウムなど):歯ぐきの腫れや炎症を抑え、歯周病を予防します。
これらの成分は、ブラッシングと組み合わせることで初めてその効果を最大限に発揮します。
毎日の歯磨きで、虫歯や歯周病のリスクを根本から減らしたい方におすすめです。
口臭対策で選ぶならどちら?
会議の前や人と会う約束がある時など、手軽に口臭をケアしたい場面では「マウスウォッシュ(洗口液)」が活躍します。
マウスウォッシュは、口に含んですすぐだけで、口臭の原因となる細菌を一時的に洗い流し、ミントなどの香味で口の中を爽やかにしてくれます。
即効性があり、水も歯ブラシも必要ないため、外出先でのエチケットとして一本持っておくと非常に便利です。
ただし、その効果は一時的なものです。
根本的な口臭の原因(歯周病や舌の汚れなど)を解決するものではない、という点は理解しておきましょう。
口の中の乾燥や刺激が気になる場合
「口の中が乾きやすい」「ピリピリとした刺激が苦手」という方は、ノンアルコールタイプの製品を選びましょう。
多くのマウスウォッシュやデンタルリンスには、清涼感や殺菌効果のためにアルコール(エタノール)が含まれています。
しかし、アルコールには唾液の分泌を抑制し、口内を乾燥させてしまう副作用の可能性があります。
口が乾くと、かえって細菌が繁殖しやすくなり、口臭や虫歯のリスクを高めてしまうことも。
【ノンアルコールタイプがおすすめな方】
- 口が乾燥しやすい方(ドライマウス)
- 刺激に敏感な方
- お子様やご高齢の方
- 車の運転をされる方(アルコール検知器に反応する可能性があるため)
最近はノンアルコールでも優れた殺菌効果を持つ製品や、保湿成分が配合された製品も増えていますので、ぜひ探してみてください。
使用方法の違いと注意点
せっかく良い製品を選んでも、使い方が間違っていては効果が半減してしまいます。
それぞれの正しい使い方と注意点をしっかり押さえておきましょう。
使用タイミング:歯みがき前?後?
ここが最も混同しやすいポイントです。
- マウスウォッシュ(洗口液)
- タイミング:歯磨きの後の仕上げ。または、日中のリフレッシュしたい時。
- 目的:歯磨きで落としきれなかった細菌や汚れを洗い流し、口内を殺菌・コーティングする。
- デンタルリンス(液体歯磨)
- タイミング:歯磨きの前。製品によっては口に含んだままブラッシングするものも。
- 目的:あらかじめ口に含んでおくことで、有効成分を口内全体に行き渡らせ、その後のブラッシング効果を高める。
パッケージに記載されている使用方法を必ず確認し、正しいタイミングで使いましょう。
正しい使い方とありがちな間違い
【マウスウォッシュの正しい使い方】
- 適量(製品の指示に従う)を口に含みます。
- 20〜30秒ほど、口の中全体に行き渡るようにクチュクチュとすすぎます。
- 吐き出した後、水で口をすすがないのがポイントです。 有効成分が流れ落ちてしまいます。
【デンタルリンスの正しい使い方】
- 適量を口に含み、20〜30秒ほどすすいでから吐き出します。
- その後、水で口をすすがずに、そのまま歯ブラシでブラッシングします。
- 磨き終わった後も、水ですすがない方が効果的です。
ありがちな間違い 😱
デンタルリンス(液体歯磨)を、マウスウォッシュのように「すすぐだけ」で終わらせてしまうこと。これでは歯の汚れは全く落ちておらず、本来の予防効果は得られません。
子どもや高齢者が使う際の注意点
ご家族で使う場合には、特に注意が必要です。
- お子様
- 飲み込み注意:うがいが上手にでき、「ブクブクしてペッ」が確実にできる年齢(目安として6歳頃)から使用しましょう。
- 製品選び:必ず「子ども用」と記載された、ノンアルコールで刺激の少ない、フッ素配合のものを選びましょう。
- 大人の監督:使用する際は、必ず大人がそばで見守り、誤飲がないか確認してください。
- ご高齢の方
- 刺激と乾燥:口腔内がデリケートで乾燥しやすいため、刺激の少ないノンアルコールタイプがおすすめです。
- 保湿成分:保湿成分が配合された製品を選ぶと、口内の潤いを保つのに役立ちます。
- 嚥下機能:むせやすい方は、使用量や顔の角度を調整するなど、誤嚥(ごえん)に注意が必要です。
プロの視点から見たおすすめの使い分け
歯科医師の立場から、より効果的な使い分けのヒントをお伝えします。
ライフスタイルに合わせて、上手に取り入れてみてください。
日常使いに向いているのはどちら?
一概にどちらが良いとは言えませんが、夜のケアを重視するという観点から、一つのモデルケースをご提案します。
- 朝・昼:時間がない時や食後のエチケットとして、手軽なマウスウォッシュでリフレッシュ。
- 夜(就寝前):一日の汚れをリセットし、睡眠中の細菌の増殖を抑えるために、デンタルリンス+ブラッシングでじっくりケア。
睡眠中は唾液の分泌が減り、細菌が最も繁殖しやすい時間帯です。
このタイミングでデンタルリンスを使い、フッ素や殺菌成分を口内にとどめておくことは、虫歯や歯周病予防に非常に効果的です。
医療現場での使用例とその理由
歯科医院では、治療の種類によって洗口液を使い分けることがあります。
場面 | 使用する製品例 | 理由 |
---|---|---|
外科処置後(抜歯など) | クロルヘキシジンなど殺菌作用の高い洗口液 | 傷口からの感染を防ぎ、清潔に保つため。患者さん自身が歯磨きしにくい状態を補助する。 |
歯周病治療中 | 殺菌成分や抗炎症成分を含む洗口液 | 歯ぐきの炎症を抑え、歯周ポケット内の細菌をコントロールするため。 |
虫歯リスクが高い方 | 高濃度のフッ化物洗口液(医師の処方が必要) | 歯質を強化し、初期虫歯の再石灰化を促進するため。 |
このように、プロの現場では「目的」に応じて成分を厳選し、患者さんの状態に合わせて処方しています。
ご自身のセルフケアでも、この「目的に合わせて選ぶ」という視点を持つことが大切です。
複数製品を使い分けるコツ
「朝用」と「夜用」で製品を使い分けるのも、賢い方法です。
- 朝・日中用:気分をシャキッとさせたい時は、爽快感の強いマウスウォッシュ。
- 夜用:じっくりケアするための、フッ素などが配合されたデンタルリンス。
- お悩み特化型:歯ぐきの腫れが気になる時期は、抗炎症成分配合のものをプラスするなど、その時々のコンディションに合わせて使い分ける。
洗面台に2〜3本並べておき、その日の気分や体調で「今日はどれにしようかな?」と選ぶのも、オーラルケアを楽しく続けるコツかもしれませんね。
まとめ
最後に、この記事の要点を振り返ってみましょう。
- マウスウォッシュ(洗口液)とデンタルリンス(液体歯磨)は、「すすぐだけ」か「ブラッシングが必要か」という明確な違いがあります。
- 口臭ケアやリフレッシュが目的なら「マウスウォッシュ」、虫歯・歯周病予防なら「デンタルリンス」を選びましょう。
- 刺激が苦手な方や乾燥が気になる方は、ノンアルコールタイプがおすすめです。
- 製品に書かれた使用方法とタイミングを守ることが、効果を最大限に引き出す鍵です。
- 夜のデンタルリンス+歯磨きは、睡眠中の細菌増殖を抑えるためのゴールデンケアです。
お口の健康は、全身の健康につながる大切な入り口です。
そして、その健康を守る基本は、毎日の正しいセルフケアに他なりません。
今日からあなたも、ご自身の目的やお口の状態に合った一本を選び、オーラルケアをアップデートしてみませんか?
その小さな一歩が、未来のあなたの健康な歯と、輝く笑顔を育んでいくはずです。