和菓子好きの歯科医が語る、罪悪感なく甘いものを楽しむためのデンタルケア

はじめまして。口腔ケアライターの中原志保と申します。東京医科歯科大学を卒業後、歯科医師として20年近く臨床に携わり、現在は歯科医療をもっとやさしく・わかりやすく伝えることを使命に、執筆活動をしています。

さて、少しだけ自己紹介を続けさせてください。実は私、和菓子が大好きなんです。週末には自宅で上生菓子を手作りするくらいの筋金入りで、横浜時代から続く”おいしい和菓子屋さん巡り”が私の大切な楽しみのひとつです。

だからこそ、こんな悩みはとてもよくわかります。「和菓子って甘いけど、歯は大丈夫なの?」「甘いものを食べるたびに罪悪感が…」「食後の歯磨きのタイミングって、いつが正解?」

歯科医師として言わせてください。甘いものは必ずしも歯の敵ではありません。大切なのは”食べ方”と”その後のケア”なのです。この記事では、和菓子好きの歯科医ライターとして蓄積してきた知識を惜しみなくお伝えします。読み終えたときには、罪悪感なく今日のお茶タイムを楽しめるようになっているはずです。どうぞ最後までお付き合いください。

虫歯が起きるメカニズムをおさらいしよう

3つの要因が重なったとき、虫歯になる

虫歯は「甘いものを食べたら必ずなる」わけではありません。じつは、次の3つの要因が同時に重なったときに発生します。

  • 歯の質(エナメル質の強さや唾液の分泌量)
  • 口の中にいる虫歯菌(ミュータンス菌などが代表的)
  • 糖分(虫歯菌のエサとなる糖質)

この3つが揃ったうえで、さらに「口の中に糖が長時間とどまる」という条件が加わると、虫歯リスクが一気に高まります。虫歯菌は糖を分解して酸を作り出し、その酸が歯の表面のエナメル質を溶かします(これを「脱灰」といいます)。ただし、唾液には脱灰した部分を修復する「再石灰化」という自浄作用もあります。問題になるのは、脱灰と再石灰化のバランスが崩れて、脱灰が勝ち続けてしまう状態です。

「甘い=危険」は誤解。鍵は「時間」と「頻度」

ここが多くの方が誤解されているポイントです。虫歯のリスクを左右するのは「甘さの強さ」でも「一度に食べる量」でもなく、口の中に糖が滞在している時間の長さと、糖を口に入れる回数なのです。

つまり、チョコレートを一粒ちびちびと1時間かけて食べるより、しっかり3粒を5分で食べてすぐ歯磨きをするほうがリスクは低い。あるいは、砂糖入りのコーヒーをデスクに置いてちびちび飲み続けるほうが、食後のケーキ一切れよりよっぽど危険なのです。

「だらだら食べ」が虫歯の最大の敵、と覚えておいてください。

和菓子を歯科医の目線で分析してみた

和菓子の種類別・虫歯リスク比較表

和菓子といっても、その種類はさまざまです。糖分の量、歯への付着のしやすさ、口の中に滞在する時間……これらの観点から、代表的な和菓子の虫歯リスクを整理してみました。

和菓子の種類主な特徴虫歯リスク
水ようかん・葛きり・わらびもち水分が多く、歯にくっつきにくい低め
大福・ぼたもち(餡入り)もち米が歯に付着しやすいやや高め
最中(もなか)砂糖たっぷりの餡が皮に密着、歯間に残りやすい高め
金平糖・落雁砂糖の塊で溶けるのに時間がかかるやや高め
上生菓子(練り切り系)糖分は多いが短時間で食べ終わりやすい中程度
おせんべい(醤油味)糖分は少ないが歯間に詰まりやすい中程度

この表を見て「水ようかんやわらびもちなら比較的安心」と感じていただけたでしょうか。水分が多いお菓子は、唾液や飲み物によって糖が流れやすいため、歯への残留時間が短くなります。一方、最中や大福は、糖分が多いうえにもち米や皮が歯に付着しやすい点に注意が必要です。

特に注意したいのが、もち米が主材料のお菓子です。もちもちした食感は歯と歯の間にぴたっとくっつきやすく、唾液だけではなかなか洗い流されません。大福やおはぎを食べた後は、いつもより丁寧にフロスを通すことをおすすめします。また、金平糖や干菓子のように「固形の砂糖」に近いお菓子は、口の中でゆっくり溶けていくため、糖の滞在時間が長くなりがちです。見た目は小さくても、歯への影響は甘く見ないほうがよいでしょう。

実は洋菓子より歯に優しいケースもある

和菓子はバターや生クリームを使わず、植物性の材料が中心です。脂質が少ないぶん、糖分が口の中で広がりにくい場合もあります。また、小豆あんや白あんにはタンパク質や食物繊維が含まれており、べたつき度でいえばキャラメルやチョコレートと比べると幾分マシな面もあります。

とはいえ、砂糖を多く使うことには変わりありません。大切なのは「食べ方」と「食後のケア」です。次の章でくわしくお伝えします。

罪悪感なく甘いものを楽しむための5つのルール

長年の臨床経験と、自分自身の和菓子愛から生まれた”実践的な5つのルール”をご紹介します。難しいことは一つもありません。今日から始められることばかりです。

ルール① 食べるタイミングは「食後のデザート」が正解

甘いものを食べるベストなタイミングは「食事の直後」です。食事中はすでに口の中が酸性に傾いており、唾液の分泌も活発な状態。そのタイミングで甘いものを食べ、まとめてケアしてしまうほうが、別の時間に単独でおやつを食べるよりも効率的です。「食後のデザート」というのは、口腔衛生の観点からも実はとても理にかなった習慣なのです。

逆に避けたいのが「就寝前の甘いもの」。睡眠中は唾液の分泌が大幅に減少するため、虫歯菌が繁殖しやすい状態になります。眠る直前の甘味は控えましょう。

ルール② だらだら食べず、一度にまとめて楽しむ

前述のように、虫歯リスクを高める最大の要因は「口の中に糖が長時間滞在すること」です。お抹茶のお供に和菓子を一つ、お皿に出して短時間でいただく——この習慣は、じつは歯の健康にも沿ったスタイルです。

一方でやってしまいがちな「袋から直接、テレビを見ながらちびちび食べ続ける」は要注意。同じ量を食べるなら、短時間で食べてしまったほうが口の中の酸性状態を最短で終わらせることができます。

ルール③ 食後すぐに水かお茶で口の中をすすぐ

歯磨きができない場面でも、食後に水やお茶でしっかりうがいするだけで口の中の糖分をある程度洗い流すことができます。外出先でお菓子を食べたあとも、これだけはぜひ習慣にしてください。

緑茶は特におすすめです。緑茶に含まれるカテキンには抗菌作用があり、虫歯菌の活動を穏やかに抑える効果が期待されます。お茶と和菓子のペアリングは、文化的にも歯科学的にも良い組み合わせといえるかもしれません(詳しくは後述します)。

ルール④ フッ素入り歯磨き粉で食後にしっかりブラッシング

「食後30分待ってから歯を磨く」という説を聞いたことがある方もいるかもしれません。これはもともと酸蝕症(炭酸飲料や柑橘系の酸が直接歯を溶かす症状)に向けたアドバイスが、虫歯予防に誤って広まったものです。通常の甘いものを食べた場合は、フッ素配合の歯磨き粉を使って食後できるだけ早く磨くことが現在の主流の考え方です。

フッ素には歯のエナメル質を強化し、再石灰化を促進する効果があります。1450ppm以上のフッ素濃度の歯磨き粉を使い、磨いたあとのすすぎは少量の水で1〜2回程度にとどめることで、フッ素をお口の中に残すことができます。

磨くときのポイントをまとめると、

  • 歯ブラシは鉛筆を持つように軽く握る
  • 歯と歯ぐきの境目に45度の角度でブラシを当てる
  • 小刻みに(1〜2mmを目安に)動かしながら、1か所につき10〜20回程度磨く
  • 奥歯から磨き始めると磨き残しが減る

ルール⑤ デンタルフロスや歯間ブラシで仕上げる

じつは歯ブラシだけでは、歯垢(プラーク)の除去率は6〜7割程度といわれています。最中や大福のような和菓子は、餡や皮が歯の隙間に入り込みやすいため、フロスや歯間ブラシの仕上げケアが特に重要です。

就寝前のケアでは、

  • まずフロスか歯間ブラシで歯間の汚れをかき出す
  • そのうえでフッ素入り歯磨き粉でブラッシング
  • 少量の水で軽くすすいで終了

この順番を習慣にすることで、甘いものを楽しみながらも歯の健康を守ることができます。

緑茶と和菓子のペアリングは、じつは歯にも嬉しい組み合わせ

日本の茶道文化に根ざした「濃いお抹茶に甘い和菓子」という取り合わせは、単なる味のバランスだけではなく、口腔環境にも理にかなっている面があります。

緑茶に含まれるカテキン(茶ポリフェノール)には、口腔内の細菌の増殖を抑える作用が認められています。食後に緑茶を飲むことで、口の中の糖分を洗い流しながら、虫歯菌の活動を穏やかに抑えることが期待できます。

また、緑茶には天然のフッ素も含まれています。含有量は微量ではありますが、口の中をアルカリ性に傾けやすいお茶の性質と合わせて、ある程度の保護作用が働くとも考えられています。お茶自体に緩衝作用(酸を中和する働き)があるため、食後に一杯飲むことで、口の中が酸性に傾いた状態をより速やかに中性へと戻す手助けにもなります。

「和菓子のあとはお茶を一杯」——これは昔の日本人の知恵でもあり、現代の口腔ケアの観点からも理に適った習慣です。ぜひ意識的に取り入れてみてください。ただし、緑茶に砂糖を加えるとその効果は半減しますので、無糖で飲むのが基本です。

セルフケアに限界を感じたら——定期健診の重要性

どれだけ丁寧にセルフケアを続けても、自宅での歯磨きだけでは落とせない歯石や、歯と歯の間の細かい汚れが少しずつ蓄積していきます。そのまま放置すると、虫歯だけでなく歯周病のリスクも高まります。

日本歯科医師会は「8020運動」を推進しています。「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という国民運動で、令和4年の歯科疾患実態調査では80歳で20本以上の歯を残している方の割合が51.6%に達しました。これは定期的な歯科受診が普及してきた成果といえます。

定期健診でできることは、

  • 歯科衛生士によるプロフェッショナルクリーニング(歯石・着色の除去)
  • フッ素の塗布(自宅用より高濃度のフッ素で歯質を強化)
  • 初期虫歯の早期発見と経過観察
  • 自分の磨き癖を知って、磨き方をブラッシュアップ

推奨されるのは3〜6ヶ月に一度のペースです。「痛くなってから行く」歯医者から「健康を維持しに行く」歯医者へ。この意識の転換が、長く自分の歯を守ることにつながります。

私がライター活動を続ける理由のひとつは、「歯を守るために甘いものを我慢しなければならない」という思い込みをなくしたいから。知識と習慣さえあれば、和菓子もケーキも、ずっと楽しみ続けることができます。80歳になっても、お気に入りの和菓子をおいしく食べられるように——その願いを込めて、この記事を書きました。

まとめ

この記事では、和菓子好きの歯科医ライターとして「罪悪感なく甘いものを楽しむためのデンタルケア」についてお伝えしました。要点を整理します。

  • 虫歯の原因は「甘さの強さ」ではなく「糖が口の中にとどまる時間と頻度」
  • 水分が多い和菓子(水ようかん・葛きりなど)は比較的リスクが低い
  • 甘いものを食べるなら「食後のデザート」として一度にまとめて楽しむ
  • 食後はすぐに水かお茶でうがいし、フッ素入り歯磨き粉で早めのブラッシングを
  • フロスや歯間ブラシを加えることで、除去率が大幅にアップ
  • 緑茶と和菓子のペアリングは口腔環境にも嬉しい習慣
  • 3〜6ヶ月に一度の定期健診で、セルフケアの限界をプロが補ってくれる

甘いものと上手に付き合うためのヒントが少しでもお役に立てれば嬉しいです。大好きな和菓子を、これからも心置きなく楽しんでいただけますように。