朝起きるとあごがだるい、奥歯がなんとなく浮いたように感じる。
そんな方は、眠っている間や日中に歯を強く合わせているのかもしれません。
元歯科医師で、口腔ケアの記事を書いている中原志保です。
この記事では、歯ぎしり・食いしばりのサインと原因、今日から始められるセルフケアをまとめました。
先にお伝えすると、まず取り組みたいのは「上下の歯を離しておく」ことです。
目次
歯ぎしり・食いしばりには「夜」と「昼」の2種類がある
ひとくちに歯ぎしりといっても、起こるタイミングと歯の動かし方によっていくつかの種類があります。
日本歯科医師会の解説では、寝ている間の「睡眠時ブラキシズム」と、起きている間の「覚醒時ブラキシズム」に分けて説明されています。
ブラキシズムは、食事や会話以外の場面で上下の歯が接触している状態をまとめて指す言葉です。
眠っている間の歯ぎしりは、脳の働きで起こる
夜の歯ぎしりには、歯をギリギリとこすり合わせるもの、カチカチと打ち鳴らすもの、音を立てずにぐっとかみしめるものがあります。
日本歯科医師会「歯ぎしり」によると、睡眠時ブラキシズムは睡眠中の脳の興奮から起こるもので、眠りが浅くなったときに多く見られます。
自己申告をもとにした調査では、成人の約5〜8%にみられ、小児では10〜20%、高齢者では2〜3%と、年齢とともに減っていくそうです。
困るのは、音の出ない「かみしめ」タイプです。
ご家族に指摘されることもないので、ご本人はまず気づきません。
しかも睡眠中の筋肉の活動は、起きているときに思いきりかみしめたときを上回ることがあると報告されています。
起きている間の食いしばりと「歯を当てているだけ」の癖
日中にも、仕事や家事に集中しているとき、重い物を持つときなどに歯をぐっとかみしめていることがあります。
さらに、強い力は入れていないのに上下の歯がずっと触れている癖もあり、「TCH(上下歯列接触癖)」と呼ばれています。
本来、力を抜いているときの上下の歯の間には、前歯のあたりで2〜3mmほどのすき間があります。
食事や飲み込むときを合わせても、上下の歯が触れている時間は1日20分ほどだといわれています。
軽く触れているだけでも、何時間も続けばあごの筋肉は休めません。
覚醒時のブラキシズムは日々の中で身についた習慣と考えられているため、意識して直していける点は希望が持てるところです。
自分では気づきにくい歯ぎしり・食いしばりのサイン
診療室で「歯ぎしりなんてしていません」とおっしゃる方の口の中に、はっきりとした跡を見つけることは珍しくありませんでした。
自覚がなくても、歯や粘膜にはサインが残ります。
鏡で確かめられる口の中の変化
洗面所の鏡で、次のような点を見てみてください。
| 確かめる場所 | 見られることのある変化 |
|---|---|
| 歯の先 | すり減って平らになっている、小さく欠けている |
| 歯と歯ぐきの境目 | 歯の根元がくさび形にえぐれている |
| 頬の内側 | 奥歯の高さに沿って白い線が入っている |
| 舌のふち | 波のような歯の跡がついている |
| 歯ぐきの内側や上あごの中央 | 硬い骨のふくらみ(骨隆起)がある |
| エラのあたり | かみしめると筋肉が大きく盛り上がる |
いくつか当てはまっても、それだけで歯ぎしりと決まるわけではありません。
ただ、複数重なる方は、一度歯科医院で見てもらうと安心です。
朝のあごのだるさや、しみる歯も合図
夜の歯ぎしりによる筋肉の痛みは、起きたときがいちばん強く、時間がたつと引いていくのが特徴です。
朝にこめかみやあごが重く、お昼には忘れている方は当てはまるかもしれません。
ほかにも、次のようなことが続くときは歯にかかる力を疑ってみてください。
- 冷たいものが歯にしみる
- 詰め物や被せ物がよく外れる
- 口を開けるとあごが鳴る、開けにくい
- 肩こりや頭痛が朝から出やすい
神奈川県歯科医師会も、TCHが顎関節症や知覚過敏、歯が割れること、歯周病の悪化につながりうると注意を呼びかけています。
歯ぎしり・食いしばりの原因
「原因は何ですか」とよく聞かれますが、これひとつ、とお答えできる原因はありません。
ストレスだけではない、いくつもの要因
夜の歯ぎしりには、ストレスや性格、遺伝、飲酒、喫煙、一部の抗うつ薬の服用、睡眠時の呼吸の乱れなどが関係すると報告されています。
ストレスが高まると歯ぎしりが増えたという研究がある一方で、すべての歯ぎしりがストレスから来るわけではないこともわかっています。
日中の食いしばりやTCHは、パソコンやスマートフォンの操作、細かい手作業など、何かに集中している場面で起こりやすくなります。
私も和菓子の生地を練っているとき、気づくと奥歯に力が入っていることがあります。
真剣になるほど口元は固くなるものです。
「かみ合わせのせい」とは言い切れない
以前は、かみ合わせの悪さが歯ぎしりを引き起こすと考えられていました。
いまは研究が進み、日本歯科医師会の解説でも、かみ合わせが原因だという科学的な根拠は示されていないとされています。
日本顎関節学会も、かみ合わせの調整がきっかけで顎の症状が悪化することがあると書いています。
「かみ合わせを整えれば治る」と、健康な歯を削る処置をすぐに受けるのは慎重になってください。
歯ぎしりの相談は、生活習慣や癖まで含めて話を聞いてくれる歯科医院を選ぶのがおすすめです。
今日からできるセルフケア
夜の歯ぎしりは眠っている間のことなので、意志の力では止められません。
日中の食いしばりやTCHは習慣ですから、気づいて直すことができます。
まずは昼の習慣から変えていきましょう。
「歯を離す」を思い出すきっかけをつくる
いちばん手軽なのは、目に入る場所に目印を置く方法です。
神奈川県歯科医師会は、「上下の歯を合わせない」と書いた付箋をパソコンやテレビのそばに貼ることを勧めています。
- パソコンの画面の端、冷蔵庫、キッチンの窓辺に付箋を貼る
- スマートフォンのアラームを1〜2時間おきに鳴らす
- 目印が目に入ったら、唇は閉じたまま、上下の歯だけをそっと離す
- 同時に肩の力も抜き、ゆっくり息を吐く
最初は、目に入るたびに歯が当たっていることに驚くかもしれません。
続けるうちに、歯が触れた瞬間に「あ、当たっている」と気づけるようになります。
ここまでくれば、癖はかなり変わってきています。
あごまわりの力を抜く習慣
日本顎関節学会「顎関節症の主な治療は」では、顎への負担を減らす生活の工夫として、硬い食べ物や長時間かむことを避ける、頬杖をやめる、猫背を直すといった点を挙げています。
うつむいてスマートフォンを見続ける姿勢は、あごが前に出て口元に力が入りやすくなるので、画面を目の高さに近づけるだけでも違います。
あごがこわばっているときは、蒸しタオルで頬からこめかみを温めるのも心地よい方法です。
エラの少し上の筋肉を、指の腹で円を描くようにやさしくほぐしてみてください。
痛みが強いときや口が開けにくいときは、自己流のストレッチは避け、医療機関で指導を受けてから行いましょう。
夜の歯ぎしりに向けて、寝る前に見直したいこと
夜の歯ぎしりを自分で止める方法はありませんが、関わる要因を減らすことはできます。
就寝前の深酒を控える、喫煙習慣を見直す、寝る直前までスマートフォンを見ないなど、眠りを浅くしない工夫を重ねていきましょう。
布団に入ったら、一度口をぽかんと開けてから静かに閉じ、歯が離れていることを確かめてから目を閉じるのもおすすめです。
いびきが大きい、日中ひどく眠いといった方は、睡眠時の呼吸の乱れが隠れていることもあります。
その場合は歯科だけでなく、睡眠の専門外来にも相談してみてください。
セルフケアで足りないときは歯科医院へ
マウスピースでできること、できないこと
歯科医院では、歯ぎしりや顎関節症と診断されると、夜に着けるマウスピース(スプリント)を作ることがあります。
健康保険が使える場合が多く、自己負担3割で数千円ほどが目安です。
費用は医院や検査の内容で変わるので、受診時に確認してください。
正直にお伝えすると、マウスピースで歯ぎしりそのものが治るわけではありません。
日本歯科医師会の解説でも、歯ぎしりを抑える効果は短期的で、長く使っていると元に戻ると書かれています。
それでも、歯や詰め物がすり減ったり割れたりするのを防ぎ、あごへの負担を和らげられる点で頼りになります。
市販品もありますが、歯に合わないまま使い続けるとかえってあごに負担をかけることもあるため、歯科医院で型を取って作るほうが安心です。
早めに受診したい症状
次のような状態があれば、セルフケアだけで様子を見ずに受診しましょう。
- 口が以前より大きく開けにくくなった
- あごの痛みが何日も続いている
- 歯が欠けた、しみる痛みが強くなってきた
- 頭痛や肩こりが続き、朝がつらい
長く続くあごの痛みや口の開けにくさは、日本顎関節学会の認定医・専門医がいる医療機関に相談する方法もあります。
まとめ
歯ぎしり・食いしばりは、夜の歯ぎしりと、日中の食いしばり・歯を当てる癖に分けて考えると対策が見えてきます。
夜の歯ぎしりは脳の働きで起こるため、マウスピースで歯を守りながら、飲酒や喫煙、眠りの質を整えていきます。
日中の癖は、付箋やアラームで「歯を離す」を思い出すことで、自分の力で変えていけます。
私自身、付箋を貼ってみて、パソコンに向かう時間の長さと、そのあいだずっと歯が触れていたことにびっくりしました。
あごの力が抜けると、不思議と食べ物の味までやわらかく感じられます。
まずは今この瞬間、上下の歯が当たっていないか確かめるところから始めてみてください。


