デンタルフロスと歯間ブラシ、正しい使い分けで歯垢除去率を劇的にアップ!

こんにちは、歯科医師の中原志保です。
毎日丁寧に歯磨きをしているのに、歯科検診で「歯と歯の間に汚れが残っていますね」と言われた経験はありませんか?

実は、どれだけ丁寧に歯ブラシで磨いても、歯と歯の間や、歯と歯ぐきの境目に付着した歯垢(プラーク)を完全に取り除くことは難しいのです。ある調査では、歯ブラシだけでの歯垢除去率は約6割というデータもあります。 残りの4割の磨き残しが、虫歯や歯周病の大きな原因となってしまいます。

歯周病は、特に歯と歯の間から進行しやすい病気です。 40代を過ぎると、多くの方が歯ぐきの変化を感じ始めます。この大切な時期に、歯ブラシだけのケアから一歩進んで、デンタルフロスや歯間ブラシを取り入れることが、将来のお口の健康を大きく左右します。

この記事では、デンタルフロスと歯間ブラシ、それぞれの特徴を詳しく解説し、あなたの歯の状態に合わせた最適な「使い分け」と「正しい使い方」を、わかりやすくお伝えします。今日から始められるプロのケアで、歯垢除去率を劇的にアップさせ、一生自分の歯で美味しく食事を楽しめる未来を、一緒につくっていきましょう。

デンタルフロスと歯間ブラシ、それぞれの役割と得意なこと

「フロスも歯間ブラシも、歯の間をきれいにするものでしょう?」
その通りですが、実はそれぞれに得意な場所と役割があります。例えるなら、掃除機とほうきのようなもの。広い場所は掃除機が効率的ですが、狭い隅はほうきの方が得意ですよね。お口のケアも同じで、場所によって道具を使い分けることが大切なのです。

デンタルフロスとは? – 「狭い隙間」のスペシャリスト

デンタルフロスは、細い糸を束ねて作られた清掃用具です。
その最大の特長は、歯と歯が接している狭い隙間や、歯ブラシの毛先が届かない歯と歯ぐきの溝(歯周ポケット)の清掃が得意なことです。

歯と歯がぴったりとくっついているように見える場所でも、フロスを通すことで、隠れた歯垢を絡め取ることができます。特に、まだ歯ぐきが引き締まっていて、歯と歯の間に目立った隙間がない方に適しています。

歯間ブラシとは? – 「少し広めの隙間」を効率よく清掃

歯間ブラシは、ワイヤーやゴムの軸に短い毛がついた、小さなブラシです。
加齢や歯周病の進行によって歯ぐきが少し下がり、歯と歯の間に三角形の隙間(歯間鼓形空隙)ができてきた場合に、その力を発揮します。

フロスが「線」で汚れを掻き出すのに対し、歯間ブラシは「面」で効率よく汚れを擦り取ることができます。ブリッジの下など、フロスでは清掃しにくい広い空間のケアにも最適です。

【早見表】フロスと歯間ブラシ、どちらを選ぶ?

まずは、ご自身の歯の状態に合わせてどちらがより適しているか、下の表でチェックしてみましょう。

デンタルフロスがおすすめな方歯間ブラシがおすすめな方
歯の隙間歯と歯の隙間が狭い、またはほとんどない歯と歯の間に隙間がある、食べ物が挟まりやすい
歯ぐきの状態健康で引き締まっている歯ぐきが下がり気味(歯が長く見える)
歯並び比較的整っている歯並びが複雑で、広い隙間がある部分
治療経験特になし、または詰め物程度ブリッジやインプラント治療を受けている
主な目的歯と歯が接する面の虫歯予防歯の根元の虫歯や歯周病予防

あなたはどっち?最適なツールを見つけるための「使い分け」完全ガイド

フロスと歯間ブラシの基本的な違いをご理解いただけたところで、次はより具体的に、あなたの生活やお口の状態に合わせた選び方を見ていきましょう。

基本は「歯と歯の隙間の広さ」で選ぶ

最も基本的な使い分けの基準は、歯と歯の隙間の広さです。鏡を持って、ご自身の歯をじっくりと観察してみてください。

歯の隙間が狭い、歯並びが整っている方 → 「デンタルフロス」

歯と歯が隣り合う面は、虫歯が最も発生しやすい場所の一つです。 歯の隙間がほとんどなく、歯間ブラシが入らないような場所には、デンタルフロスが必須です。 フロスを使うことで、歯ブラシでは届かない接触点の歯垢を効果的に除去し、虫歯を予防します。

歯の隙間が広がり始めた、ブリッジがある方 → 「歯間ブラシ」

歯周病が少し進行したり、加齢によって歯ぐきが下がってくると、歯の根元に隙間ができてきます。このような隙間は、フロスだけでは汚れを取りきれないことがあります。歯間ブラシを使うことで、歯の根元の側面や、くぼんだ部分の歯垢を効率的に除去できます。

こんな場合はどうする?ケース別の選び方

お口の中は、すべての場所が同じ状態ではありません。部分的にフロスと歯間ブラシを使い分ける「ハイブリッドケア」が、実は最も効果的なのです。

歯並びが複雑な部分

歯が重なり合っている部分は、隙間が狭いためデンタルフロスが適しています。一方で、歯がねじれていて根元に広い空間ができているような場所は、歯間ブラシが効果的です。場所ごとに最適なツールを選びましょう。

被せ物(クラウン)やブリッジがある

ブリッジは、抜けた歯の両隣の歯を支えにして、橋のように人工の歯を被せる治療法です。この橋の下の部分(ポンティック)は、汚れが非常に溜まりやすい場所です。ここは歯間ブラシや、スーパーフロスと呼ばれる特殊なフロスが清掃に適しています。

インプラント治療をしている

インプラントは天然の歯とは構造が少し異なり、周囲のケアが特に重要です。インプラントと歯ぐきの境目は、専用の歯間ブラシや、インプラント用のフロスを使って丁寧に清掃する必要があります。自己判断でケアをせず、必ず歯科医師や歯科衛生士の指導を受けましょう。

迷ったら歯科医院で相談するのが一番の近道

「自分に合うサイズや種類がわからない」
「使い方が合っているか不安」

そんな時は、ぜひかかりつけの歯科医院で相談してください。歯科医師や歯科衛生士は、あなたのお口の中を隅々までチェックし、最適なツールとそのサイズ、そして正しい使い方を丁寧に指導してくれます。自分に合わないサイズの歯間ブラシを無理に使うと、歯ぐきを傷つけてしまう可能性もあるため、専門家のアドバイスを受けることが何よりの安全策です。

効果を最大化する!デンタルフロスと歯間ブラシの正しい使い方

せっかく良い道具を手に入れても、使い方が間違っていては効果が半減してしまいます。ここでは、それぞれの基本的な使い方と、効果を高めるためのコツをご紹介します。

【基本編】デンタルフロスの正しい使い方

デンタルフロスには、指に巻きつけて使う「糸巻き(ロール)タイプ」と、持ち手が付いた「ホルダータイプ」があります。

糸巻き(ロール)タイプの使い方ステップ

  1. 長さを測る:フロスを約40cm(ひじから指先くらい)の長さに切って取り出します。
  2. 指に巻く:両手の中指に、片方に多めに、もう片方に少しだけ巻きつけます。
  3. ピンと張る:両手の親指と人差し指でフロスをつまみ、指の間隔が1〜2cmになるようにピンと張ります。
  4. 挿入する:鏡を見ながら、歯と歯の間にフロスを当て、のこぎりを引くようにゆっくりとスライドさせて挿入します。 ※勢いよく入れると歯ぐきを傷つけるので注意!
  5. 清掃する:歯ぐきの溝に少しだけ(1〜2mm)入るようにし、片方の歯の側面にCの字を描くように巻きつけ、上下に数回動かして歯垢をこすり取ります。
  6. 隣の歯も:同じ場所で、今度は反対側の歯の側面も同様に清掃します。
  7. 次の歯へ:汚れた部分を巻き取り、常にきれいな部分を使って次の歯の間に移動します。

ホルダータイプの使い方ステップ

  1. 挿入する:フロス部分を歯と歯の間にゆっくりと挿入します。
  2. 清掃する:片方の歯の側面に沿わせるようにして、上下に数回動かします。
  3. 隣の歯も:反対側の歯の側面も同様に清掃します。奥歯にはY字型、前歯にはF字型が使いやすいでしょう。

フロス使用時の注意点

  • 詰め物や被せ物に引っかかって抜けない場合は、無理に引き抜かず、片方の指からフロスを外して横から引き抜きましょう。
  • 毎回同じ場所でフロスが切れたり、引っかかったりする場合は、詰め物の不適合や虫歯の可能性があります。早めに歯科医院で診てもらいましょう。

【基本編】歯間ブラシの正しい使い方

歯間ブラシは、サイズ選びが最も重要です。歯の隙間にスムーズに挿入でき、きつく感じないサイズを選びましょう。

歯間ブラシの使い方ステップ

  1. 挿入する:鏡を見ながら、歯と歯の間の根元の三角形の隙間に、歯ぐきを傷つけないようにゆっくりと水平に挿入します。
  2. 動かす:挿入したら、前後に2〜3回、やさしく動かして清掃します。 ※回転させるとワイヤーが曲がったり、歯ぐきを傷つけたりする原因になるのでやめましょう。
  3. 裏側からも:可能であれば、歯の裏側(舌側)からも同様に行うと、より効果的です。
  4. 洗浄と保管:使用後は流水でよく洗い、風通しの良い場所で乾燥させて保管します。

歯間ブラシ使用時の注意点

  • 無理に挿入しないでください。 スムーズに入らない場合は、サイズが合っていないか、デンタルフロスを使用すべき場所です。
  • ワイヤーを曲げて使用しないでください。金属疲労で折れる原因になります。奥歯に使いにくい場合は、L字型の歯間ブラシを選びましょう。
  • 毛先が乱れたり、ワイヤーが曲がったりしたら交換のサインです。一般的に1週間から2週間程度が交換の目安です。

自分にぴったりの一本を見つける!製品の選び方

ドラッグストアに行くと、多種多様な製品が並んでいて迷ってしまいますよね。ここでは、製品選びのポイントを解説します。

デンタルフロスの種類と選び方

初心者でも安心「ホルダータイプ(F字型・Y字型)」

持ち手が付いているため、指で操作するのが難しい方や、フロスを初めて使う方に最適です。

  • F字型:前歯に使いやすい形状です。
  • Y字型:持ち手が長く、奥歯にも届きやすいのが特徴です。

慣れた方向け「糸巻き(ロール)タイプ(ワックス・アンワックス)」

コストパフォーマンスが良く、常に清潔な部分を使えるのがメリットです。

  • ワックスタイプ:糸がワックスでコーティングされており、滑りが良いため、歯間が狭い方や初心者でも挿入しやすいです。
  • アンワックス(ノンワックス)タイプ:ワックス加工がなく、繊維が広がりやすいため、歯垢をしっかりと絡め取ることができます。

その他、唾液で膨らんで歯面にフィットするスポンジタイプなどもあります。

歯間ブラシの種類と選び方

サイズ選びが最も重要!「SSSS」から「LL」まで

歯間ブラシ選びで最も大切なのは「サイズ」です。 メーカーによって多少の違いはありますが、一般的に「4S(SSSS)」から「LL」まで、細かくサイズが分かれています。
目安は「歯の隙間に無理なく挿入でき、スカスカすぎない」サイズです。 迷った場合は、まず一番細いサイズから試してみるのが安全です。

形状で選ぶ「I字型」と「L字型」

  • I字型(ストレートタイプ):主に前歯部に使いやすい形状です。
  • L字型:ネックがL字に曲がっており、奥歯にも挿入しやすいのが特徴です。

材質で選ぶ「ワイヤータイプ」と「ゴムタイプ」

  • ワイヤータイプ:清掃能力が高いのが特徴です。ナイロンなどの毛が使われています。
  • ゴムタイプ:ワイヤーを使用しておらず、柔らかい使い心地が特徴です。歯ぐきへの刺激が少なく、マッサージ効果も期待できますが、清掃能力はワイヤータイプにやや劣る場合があります。

よくあるご質問 Q&A

最後に、患者さんからよくいただく質問にお答えします。

Q1. 使うと血が出るのですが、続けても大丈夫ですか?

使い始めに出血することは、珍しいことではありません。 これは、歯ぐきに炎症(歯肉炎)が起きているサインです。 歯垢が溜まって炎症を起こしている場所にブラシやフロスが触れることで出血しますが、これは「悪い血」が出ている証拠。怖がらずに優しくケアを続けてみてください。1〜2週間ほどで歯垢が除去され、炎症が治まると、出血は自然と収まってきます。
ただし、痛みが強かったり、2週間以上出血が続いたりする場合は、歯周病が進行しているか、使い方が間違っている可能性がありますので、歯科医院に相談しましょう。

Q2. 歯磨きの前と後、どちらで使うのが効果的ですか?

どちらが絶対に正しいということはありませんが、「歯磨きの前」に使うことをお勧めしています。
先にフロスや歯間ブラシで歯と歯の間の大きな汚れを取り除いておくことで、その後に使う歯磨き剤の薬用成分(フッ化物など)が、歯の隅々まで行き渡りやすくなるからです。

Q3. 毎日使った方が良いのでしょうか?

はい、1日1回、できれば就寝前の歯磨きの際に使うのが理想的です。
歯垢は24時間程度で形成されると言われています。就寝中は唾液の分泌が減り、細菌が繁殖しやすくなるため、寝る前に徹底的にリセットすることが大切です。まずは毎日の習慣にすることを目指しましょう。

Q4. 使っていると歯の隙間が広がりませんか?

正しいサイズと使い方を守っていれば、歯の隙間が広がることはありません。
「隙間が広がった」と感じる場合、それは歯ぐきの炎症が治まって腫れが引き、本来の健康な状態に戻ったためにそう感じることがほとんどです。
ただし、大きすぎるサイズの歯間ブラシを無理やり使うと、歯ぐきを押し下げてしまう(歯肉退縮)原因になることがあります。 サイズ選びは慎重に行いましょう。

まとめ:今日から始める「プラスワン」ケアで、一生ものの健康な歯を

デンタルフロスと歯間ブラシの使い分け、いかがでしたでしょうか。
歯ブラシによるブラッシングに、デンタルフロスや歯間ブラシをプラスすることで、歯垢除去率は8割から9割以上にまで高まります。 この「プラスワン」のひと手間が、将来の虫歯や歯周病のリスクを大きく減らしてくれるのです。

  • 歯の隙間が狭い部分は「デンタルフロス」
  • 歯の隙間が広い部分は「歯間ブラシ」

この基本を忘れずに、まずはご自身のお口の状態に合ったツールを1つ、今日の歯磨きから取り入れてみてください。正しいケアを続ければ、お口の中は必ず応えてくれます。

自分の歯で、いつまでも美味しく食事をし、心から笑える毎日を送るために。今日から始める「プラスワン」ケアで、あなたの一生ものの健康な歯を守っていきましょう。