舌がヒリヒリ痛む「舌痛症」。意外と多いこの症状の原因と対処法

舌がヒリヒリするのに、鏡で見ても傷ひとつない。
歯医者さんでも「特に異常はありませんね」と言われて、途方に暮れていませんか。

歯科医師で口腔ケアライターの中原志保です。
その痛みは「舌痛症」かもしれません。

50〜60代の女性に多い病気で、原因がはっきりしない一方、治療や日々の工夫で楽になる道はあります。
この記事では、原因の考え方と受診の目安、自宅でできる対処法をお伝えします。

舌痛症とは?見た目に異常がないのにヒリヒリ痛む病気

舌はきれいなのに、痛みだけが続く

舌痛症は、口の中に傷や腫れといった目に見える変化がないのに、舌がヒリヒリ、ピリピリと痛む病気です。
海外では「口腔灼熱症候群(バーニングマウス症候群)」と呼ばれ、舌以外に歯ぐきや唇、上あごが痛むこともあります。

日本歯科医師会の解説ページ「舌痛症」では、国際頭痛分類第3版にもとづき、ヒリヒリした痛みや不快な感覚が1日2時間以上、3か月以上にわたって毎日くり返し、ほかに明らかな原因がない状態を舌痛症と定義しています。
痛む場所は舌の先から両脇にかけてが多く、左右両側に出るのが一般的です。

周りの人から見ても異常がわからないため、なかなか理解してもらえないのがつらいところです。
「気のせいじゃないの」と言われて、ひとりで抱え込んでいる方も少なくありません。

50〜60代の女性に多い、意外と身近な病気

同じく日本歯科医師会のページによると、舌痛症は全人口の0.7〜3%に起こるとされ、とくに更年期の女性に多いと書かれています。
閉経後の女性での有病率は12〜18%という報告もあり、男女比は1対8から1対10です。

閉経後の女性の1割以上と聞くと、ぐっと身近な話に感じられます。
私自身、同世代の友人から「実は舌がずっとピリピリしていて」と打ち明けられたことが何度かあります。
症状があっても病院に行かず、我慢している人はかなりいると感じています。

食事中はむしろ楽になる不思議な特徴

舌痛症には、ほかの口の痛みとは違う特徴があります。
口内炎や火傷なら、食べ物がしみてかえって痛くなりますよね。
ところが舌痛症では、食事をしている間のほうが痛みが和らぐことが多いのです。

痛みは朝起きてから夜寝るまで続くことが多い一方、痛みで眠れない、夜中に目が覚めるということは基本的にありません。
夕方になるにつれて強くなる方もいます。
何かに集中しているときは忘れていて、ひと息ついたとたんにヒリヒリが戻ってくる、という話もよく耳にします。

舌痛症の原因は?

はっきりした原因はまだ解明されていない

正直にお伝えすると、舌痛症の原因はまだはっきりわかっていません。
以前の日本では「心因性の痛み」と扱われることが多かったのですが、今は痛みを伝える神経や、脳が痛みを処理する仕組みに変化が起きているという考え方が有力です。
MSDマニュアルでも、神経に由来する痛みで、原因は一つではない可能性があると説明されています。

そのうえで、発症や悪化に関わるとされているのが次のような要因です。

  • 閉経前後の女性ホルモンの変化
  • 仕事や家庭でのストレス、不安
  • 口の乾燥
  • 歯科治療をきっかけに痛みを自覚するケース

とくにストレスとの関係は深く、不安な出来事があると痛みが強くなることがわかっています。
ただ、これは「気持ちの問題だから我慢しなさい」という意味ではありません。
ストレスが痛みのスイッチを入れやすくしている、と受け止めてください。

別の病気が隠れている「二次性」の舌の痛み

ここは大事な点なので、少し詳しく書きます。
舌の痛みの中には、別の病気や口の環境が原因になっているものがあり、これを「二次性」の舌の痛みと呼びます。
こちらは原因を取り除けば治ることが多いため、舌痛症と診断する前に、まず見逃さないようにします。

分類主な原因
栄養・血液鉄欠乏性貧血、ビタミンB12や葉酸の不足、亜鉛不足
全身の病気糖尿病、シェーグレン症候群
口の中の感染・粘膜の病気口腔カンジダ症(カビの一種)、扁平苔癬
口の環境口の乾燥、口呼吸、合っていない入れ歯や角が尖った詰め物
くせ舌を歯に押し当てる、唇をかむ、食いしばり
薬・材料口が乾きやすくなる薬、一部の降圧薬、歯科材料のアレルギー

神奈川県歯科医師会の舌痛症のコラムでも、口の乾燥によるカンジダの増加や亜鉛不足、鉄欠乏性貧血が誘因として挙げられています。
胃の手術を受けた方はビタミンB12を吸収しにくくなるため、該当する方は受診のときに伝えてください。

歯科医院で働いていた頃、舌の縁の痛みを訴えていた方の原因が、奥歯の詰め物の小さな欠けだったことがありました。
角を丸く整えただけで痛みが引いたのを覚えています。
「舌痛症だろう」と決めつける前に、こうした原因をひとつずつ消していくことが大切です。

自分の舌の痛みは舌痛症?受診の目安と何科に行くか

舌痛症を疑うサイン

次のような特徴が重なっていたら、舌痛症の可能性があります。

  • 舌の先や両脇がヒリヒリ、ピリピリと焼けるように痛む
  • 鏡で見ても、傷や腫れ、変色がない
  • 痛みが毎日、1日のうち数時間以上続いている
  • 食事中やガムをかんでいるときは痛みが楽になる
  • 痛みで夜中に目が覚めることはない
  • 口の乾きや、味の感じ方の変化もある

ただし、これはあくまで目安です。
自己判断で「舌痛症だから様子を見よう」とせず、一度は歯科で診てもらってください。

早めに受診したい痛み

舌の痛みで多くの方が心配されるのが、舌がんではないかということです。
日本歯科医師会のページには、悪性の腫瘍が痛みだけを症状として現れることは非常にまれで、ただれやできものといった目に見える変化をともなうと書かれています。
舌痛症の診断がついた時点で、悪い病気ではないことが確認されたことにもなります。

一方で、次のような症状がある場合は、舌痛症とは別の病気を疑って早めに受診してください。

  • 2週間たっても治らない口内炎やただれがある
  • 舌の片側だけに、硬いしこりや盛り上がりがある
  • 白い斑点や赤い斑点が消えない
  • 痛む場所から出血する

何科に行けばいい?

「舌が痛いのに何科へ行けばいいかわからない」という声はとても多いです。
私のおすすめは、まずかかりつけの歯科医院に相談することです。
合わない入れ歯や詰め物、カンジダなど、歯科で見つけやすい原因が意外と多いからです。

受診先主な役割
かかりつけの歯科医院口の中の診察、入れ歯や詰め物の調整、専門医への紹介
口腔外科粘膜の病気や腫瘍の確認、カンジダなどの検査
大学病院の歯科心身医療科・ペインクリニック舌痛症の専門的な診断と治療(紹介状が必要なことが多い)
内科貧血や糖尿病、栄養不足の血液検査
心療内科・精神科不安やうつが痛みを強めている場合の治療

歯科から心療内科を勧められて、「気のせいだと思われた」と傷つく方もいます。
でもこれは、不安が痛みを強めていることが多いうえ、抗うつ薬そのものに痛みを和らげる働きがあるためです。
痛みを軽くするための選択肢のひとつだと考えてみてください。

舌痛症の治療法

まずは検査で隠れた原因を探す

治療は、二次性の原因がないかを調べるところから始まります。
血液検査で貧血や亜鉛不足、糖尿病の有無を確認し、綿棒で舌をこすってカンジダがいないかを培養で調べます。
入れ歯や詰め物の当たり、唾液の量もチェックします。
ここで原因が見つかれば、その治療で痛みが消えることも珍しくありません。

認知行動療法と薬による治療

原因となる病気が見つからない場合は、症状を和らげる治療を行います。
日本歯科医師会のページでは、有効性が科学的に確かめられている方法として認知行動療法が挙げられています。
痛みにとらわれている自分を少し離れたところから観察する練習や、体の緊張をゆるめるリラクゼーションなどです。

薬では、抗うつ薬や抗けいれん薬の一種であるクロナゼパムが使われることがあります。
クロナゼパムは飲み込むと眠気が出やすいため、錠剤を口に含んで溶かす使い方も報告されています。
ただし、これらの薬は日本では舌痛症の治療薬としては承認されておらず、同じページでも効果の根拠はまだ十分でないとされています。
使うかどうかは、主治医とよく相談して決めてください。

専門的に診ている医療機関の実績も紹介しておきます。
東京科学大学の歯科心身医学分野では、舌痛症などの患者さんに薬物療法と生活指導、必要に応じて心理療法を組み合わせ、約70%の患者さんで比較的良好な経過が得られていると紹介されています。
私の母校でもあり、あきらめずに専門家を頼ってほしいという気持ちでこの数字を読みました。

治療のゴールは「痛みゼロ」ではない

ここは期待しすぎないでほしいので、正直に書きます。
何もしなくても自然に治る舌痛症は3%程度とされ、多くの方は長く付き合うことになります。

そのため治療の目標は、痛みを完全になくすことより、痛みと上手に付き合い、日常生活を取り戻すことに置かれます。
「以前は1日中舌のことばかり考えていたけれど、今は気にならない時間が増えた」という変化も、立派な改善です。

自宅でできる舌の痛みの対処法

刺激になるものを減らす

痛みがあるうちは、舌への刺激をできるだけ減らしましょう。
MSDマニュアルでは、タバコや辛いもの、酸っぱいもの、アルコールを避けることが勧められています。
見落としがちなのが、アルコールを含む洗口液です。
さっぱりするからと毎日使っている方は、ノンアルコールタイプに替えてみてください。

歯みがき粉も、清涼感の強いものや研磨剤の多いものがしみる場合があります。
低刺激のものに替え、舌をブラシで強くこすらないようにします。

口の乾燥を防ぐ

口が乾くと粘膜が敏感になり、痛みを感じやすくなります。
冷たい水をこまめに口に含む、氷を少しずつなめる、シュガーレスガムをかむといった方法は、手軽で試しやすいものです。
食事中は痛みが楽になるという舌痛症の特徴を考えても、口を適度に動かすのは理にかなっています。

就寝中に口が開いてしまう方は、加湿器を使うのもよいと思います。
口の乾きが強い場合は、ドライマウスの治療を受けることで痛みが軽くなることもあります。

鏡で何度も舌を確かめない

痛みが続くと、つい鏡で舌を見たくなりますよね。
ただ、舌の表面にはもともと細かなぶつぶつやひだがあり、何度も見ているうちに「これは病気では」と不安が膨らみがちです。
不安は痛みを強めるので、確かめる回数を意識して減らしてみてください。

舌を歯に押し当てたり、前歯の裏でこすったりするくせも、痛みを長引かせる原因になります。
気づいたときに舌の力を抜き、上あごにそっと添えておくのが楽な位置です。
私は庭仕事をしている間は、不思議と口のことを忘れていられます。
夢中になれる時間を持つことも、立派なセルフケアだと思っています。

まとめ

舌痛症は、見た目に異常がないのに舌がヒリヒリと痛む病気で、閉経後の女性に多く見られます。
原因はまだ解明されていませんが、貧血や亜鉛不足、カンジダ、合わない入れ歯など、取り除ける原因が隠れていることもあります。

まずはかかりつけの歯科で相談し、必要に応じて口腔外科や専門外来につないでもらいましょう。
2週間以上治らないただれやしこりがあるときは、早めの受診が必要です。
治療では認知行動療法や薬が使われ、自宅では刺激を減らし、口の乾燥を防ぐ工夫が役立ちます。

痛みをゼロにすることより、痛みを気にせず過ごせる時間を少しずつ増やしていく。
そのくらいの気持ちで向き合うほうが、結果的に長続きします。
ひとりで抱え込まず、わかってくれる専門家を頼ってくださいね。